エリート上司の甘く危険な独占欲
（ってことは……やっぱり見られてたんだ。惨めな失恋シーンを、よりによって一之瀬部長に見られてたなんて……最悪）

　頭を抱えたい衝動をどうにか抑え込んで、華奈はカクテルを口に含んだ。一刻も早くこの場から消えてしまいたい。その思いのままに、グラスを空にする。

「お会計をお願いします」

　華奈がバーテンダーに言うと、彼は営業スマイルを浮かべた。

「先ほどのお連れの男性がご一緒に清算されました」

　バーテンダーの言葉に、華奈の頬がカァッと熱くなる。

（こ、この人も私が振られた現場を見てたんだよねっ）

　華奈は恥ずかしくてたまらなくなり、カウンターの下からショルダーバッグを取り上げ、席を立った。

「どうもありがとう」

　そのまま立ち去ろうとしたが、バーテンダーの声に止められる。

「お客さま、お忘れ物です」

　振り返ると、バーテンダーが片手でカウンターの上の黒い小箱を示していた。

「あ、ど、どうも」

　華奈はそれをさっと取り上げると、そそくさと出口を目指した。 
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