バーのドアを開けて外に出た華奈は、閉まったドアに背中を預けた。

(もう最悪、最悪、最悪!)

 周囲には人影がなく、誰にも見られていない安堵から、目からまた涙がこぼれた。右手で涙をぬぐったが、その手にネックレス入りの箱を握っていることに気づく。

「なにが手切れの品よ。バカにして」

 悲しみの中に怒りが混じってきた。やるせない気持ちのまま歩き出すと、ふっと潮の香りがした。近くに丸い大理石を敷き詰めた人工のビーチがあったことを思い出す。

 華菜はビーチを目指して歩き出した。ビーチの手前には商業施設があり、まだ開いているショップやレストランの明かりが歩道を明るく照らしていた。だが、そこを抜けると、再開発が進んでいない空き地が広がっている。華菜はビーチへと続くコンクリートの階段を上った。空は星がいくつか瞬いているだけで物寂しく、海では黒い波がゆっくりとうねっていて、四月上旬の夜九時近いビーチには誰もいなかった。ずっと向こうの対岸には、工場地帯と船の明かりがところどころに見えた。

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