「ごめんな、失礼なこと言って」

三上さんは散々笑って、眼鏡をとって目元まで拭った。くそう。

「取引先の女性が、二人続けてストーカーっぽくなってさ。さすがにちょっと警戒してて。」

「どうでもいいですが、言葉遣い砕けすぎじゃないですか?一応取引先の人間ですが、私。」

憮然として言う。ムカムカ。

「いいじゃない。橋本さんと俺の仲でしょ」
「どんな仲ですかッ!」

「こういう、テンポのいい会話できる仲、かな?」

言いながら立ち上がった彼は、向かい合って座っていた机を回って、こちらに近づく。
え?と思ってる間に、隣の席に座り、私の顔を覗きこむ。

────近い!

思わず仰け反って、左手でドキドキとうるさい心臓の辺りを押さえる。
イケメン×近距離は、心臓に対する暴力だ!
29年間生きてきて(もうすぐ30年だけど)、初めて知った!!

「橋本さんて、面白いね。今からメシ食いに行かない?奢るよ。」

「結構です。モテる方は、誤解を招く行動は避けることをオススメしますよ。失礼します!」

即答してやった。
私も砕けた口調になったが、知るもんか!

サッと鞄を掴んで、立ち上がる。
急いで出口に向かう途中、足元でキラッと何か光った。
──つい、ふっと視線を下げてしまった。

「……!!!」

ガラス張りの会議室の壁から、夕暮れの街が足元に見えてしまった……。車のヘッドライトが光ったんだ。
状況は把握したけど、足がガクガク震えて、ドアまで1メートルほどのところでヘナヘナと膝をついてしまう。

うう、取引先で、何たる失態…
これも三上さんが変な話題を振ってきて、警戒するのを忘れたからだ!いつもは絶対にこんなヘマ、しないのに!!
怒りと情けなさで、顔が熱い。

ぐるぐる考えていると、背後から、クックッと噛み殺した笑い声が近づいてくる。
た、立たなきゃ!
でも、足に力が入らない。

「ちょっと失礼。」

背後から二の腕を掴まれ、ひょいっと立たされる。
私ぽっちゃりさんだから重たいのに、軽々と。
わーすごいと思う間もなく足がふらついて、顔面からドアに当たりにいってしまう。
手を前に出そうとした瞬間、それを後ろに引っ張られた。

「おっと、危ない。」

ぽすん、と辿り着いた先は、固いドアではなく、いい香りのするスーツの腕の中。