イジメ返し3
西沢砂羽サイド
西沢砂羽サイド

「やった!フォロワー1000越えた!」

歩きながらスマホの画面を見つめて叫ぶ。

ついに1000人を越えた。

毎日コツコツと投稿したかいがあった。

あたしにとってSNSは日常の一部だ。

人間は息をしないと死んでしまうように、あたしはSNSがなければ死んでしまうとすら思う。

なによりも大切なものだ。

親とか友達とか彼氏とかそんなものなくてもいい。

スマホがあってSNSの世界で生きられればそれでいい。

そのとき、背後からきた車がけたたましい音を立ててクラクションを鳴らした。

ちょうど道路を横断したところだった。

もちろん、視線はスマホに落としたままだ。

「おい、どこ見て歩いてるんだ!周りも見ずに突然道を横切るなんて危ないだろう!!」

ハゲ散らかした親父が軽トラックの窓を開けて叫ぶ。

「ハァ?道路は歩行者優先でしょ。免許取り直してきたほうがいいんじゃない?」

ぼそっと呟くように言って親父から目を反らす。

軽自動車の側面には親父の会社の名前や電話番号が載っている。

仕事が嫌だからってこっちに八つ当たりしないでほしい。

「聞いてるのか!?スマホばっかり見てないで周りにも気を配れ!」

「めんどくさ」

「飛び出してきたのはお前でもな、轢いたら車が悪くなるんだ!もっと自覚を持て!!」

あーあ。マジウザい。

「はーい。ごめんなさーい。もうしませーん」

適当に謝りながらスマホを構える。

「これからはちゃんと周りを見て歩け!そんな無謀なことばっかりしてたら親御さんが泣くぞ!」

親父は写真を撮られていることなんてまったく気づかない様子で再びハンドルを握った。

「ウザい親父。炎上させてやるから」

軽トラックが走り去ると、裏垢を開く。

【今、軽トラックの運転手に大声で卑猥な言葉をかけられたんだけど!マジ死ね!みんな注意して!♯変質者情報!♯拡散希望♯気を付けて!】

ついでに軽トラックの写真をアップする。

すると、瞬く間にフォロワーがリツイートを始めた。

『大丈夫ですか?変態親父許せない!』

『リツイートしました!拡散しておきます!』

『車に社名と番号入ってない?抗議電話する!』

心にスーッと気持ちのいい風が吹く。

SNSがある限りあたしは最強だ。

表向きのアカウントには良いことだけしか載せない。

でも、使い分けしている複数のアカウントでは毒を吐く。

ちゃんと管理しているし、セキュリティーもばっちりだ。

「さてと、今日はどんな投稿しよっかぁ~!」

その間にも、リツイート数は増えていく。

ネット上の正義感丸出しの誰かはすでに親父の会社を特定し、攻撃してくれている。

自分がしなくても、誰かがやってくれる。

なんて便利なんだろう。

あたしはスキップ交じりに学校へ向かった。
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