秘める二人の、叶わぬ恋の進め方。

──‥。

物語の筋は、前に作品を読んだ事があったので理解していたが、それでも引き込まれた。

セリフは、
一言一句そのままに小説通りなようだった。

武者小路実篤の作品はあの日本文学特有の言葉の難しさがないから、セリフとしてそのまま引っ張ってきていても、違和感も小難しさも無くて良かった。

そしてなにより。


「野島がすごく良かったです」


劇場を人だかりをかけわけながらやっとフロアまで出て、言いたくて言いたくて仕方がなかった感想が口をついた。

俺も驚いた、と言って最上さんが頷く。

「私、前に小説読んだ時は野島なんて思い上がり激しくて自意識過剰で好きじゃなかったんですけど、なんか今日の舞台での野島は憎めませんでした」

「だよな。台詞は同じはずなのに、役者の演じ方次第でこう‥だいぶ変わるな。同情したし、なんか可愛いかった」

「はい、なんだかユニークで愛らしかったです」

そんな風に感想を言い合いながら、自分が最上さんと自然に会話出来ている事に少し驚いた。

‥‥というか、誰かに何かの感想とか、
こんなに素直に言えた事って、あんまり無いかもしれない。



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