想うだけの…
入園式 1
「あのレンガのお家のところを曲がったら、ルナちゃんの幼稚園があるんだよ!」
嬉しそうにルナが言った。
角を曲がると、幼稚園の門はスーツ姿の保護者と初々しい制服姿の入園児たちで溢れていた。
「お友達いっぱいだ!」
ルナは飛び跳ねながら嬉しそうに言った。
門をくぐると、既に入園式の受付は始まっており長い列が2本できていた。
列の最後尾で、職員らしき女性が大きな声で叫んでいた。
「左手にあるクラス表でお子様のクラスをご確認ください!うさぎ組の方は右の列、こあら組の方は左の列にお並びいただき、受付をお済ませください!」
智子は、こあら組に“浅井ルナ”の名前を見つけた瞬間、深いため息をついき呟いた。
「こあらだ。どうしよう…」
ルナは入園説明会の時から、ずっとうさぎ組になりたいと言っていたのだ。一度言い出したら聞かないルナをどうなだめるか考えていると、
「あーあ、ルナちゃん、こあら組さんだって」
恭平が残念そうにルナに告げた。
「えー!ルナちゃんうさぎ組さんがいいの!こあらさんやだ!こあら組なんか変なの!かわいくない!」
ルナが愚図り始めてしまった。
「もう!なんで言っちゃうのよ」
「なにがダメなんだよ…」
「うさぎ組がいいって言ってたの知ってるでしょ?それなのに“あーあ”なんて言っっちゃったら、余計イヤになっちゃうじゃない」
恭平はとても優しいが、少々デリカシーのないところが唯一の欠点だといつも智子は思っていた。
智子はこあら組の最後尾に並びながらルナをなだめた。
「こあら組さんだって楽しいよ!いーっぱいお友達がいるよ」
「やーだー!うさぎさんがいいのー!」
ルナは泣き出してしまった。
「混雑してまいりましたので、受け付けをされる以外の方は、2階の多目的ホールへお上がりくださーい!」
職員の誘導を聞いた恭平は、
「ユナ連れて上がっておくね」
不機嫌な智子から逃げるように、足早にホールへと行ってしまった。