秘密の恋は1年後
「ちょっと友達と遊びに出てたの」
「……本当に? 平日の夜遅くまで遊ぶタイプじゃないよね?」
ずいっと一歩近づいた姉の威圧に、ゴクリと喉が鳴る。
生まれてからずっと私を見てきた彼女にはごまかしが通じない気がしてならないのだ。きっと、私を心配してくれているだけで、行動を縛るつもりじゃないのが分かるから、どうにも返事に困る。
だけど、尚斗さんとの約束は守らなくちゃ……。
意識して、彼女の瞳をじっと見つめ返す。
「おはようございます」
背後から聞こえた声に振り返ると、近隣のカフェのアイスコーヒーを手に、尚斗さんが出勤してきた。
「千堂社長、おはようございます」
「麻生さん、今日中に次の会議の資料を、経営推進室長と私に送ってもらえますか?」
「かしこまりました」
今朝ももれなく凛々しい尚斗さんに、なにげなくSOSを込めた視線を投げかける。
「妹さんも、おはようございます」
「おはようございます」
だけど、彼はにこっと微笑み返すだけで、先にエレベーターの方へと角を曲がってしまった。