その身体に触れたら、負け ~いじわる貴公子は一途な婚約者~ *10/26番外編
六. 心の向かう先
 リリアナの訪問を受けてから数日後、今度はサイラスから呼び出しを受けた。それも王宮にである。

 王宮に出向くのは気が重かったけれど、フリークス卿のことで話があると言われれば仕方がない。オリヴィアとしても父の事は気になっていた事でもある。

 宰相補佐官の二人の執務室は隣り合うらしい。彼と鉢合わせしたらと思うとぎこちない足取りになってしまったけれど、そんなこともなくあっさりとサイラスの執務室に到着した。彼女は深く息を吐いた。

 いい加減、フレッドのことを意識するのをやめなくては。

 案内してくれた侍従は、前回フレッドの執務室へ案内してくれた者と同じだ。フレッド個人の侍従ではないということだろうか。違和感はあったけれど、そんなものかもしれない。

「申し訳ありませんが、侍女殿には外でお待ちいただくようにとのご指示でございます」
「いいえ、お嬢様をお一人にはできません」

 エマが抗議の声を上げる。オリヴィアも怪訝に思った。未婚の男女が二人きりになるなど褒められた話ではない。ましてやサイラスには婚約者がいるのだ。

 ところが侍従は「内密のお話ですので」と反論を許さず、まるで彼女が逃げ帰るのを阻止するかのように、焦った様子で彼女を中へと押しこんだ。


 オリヴィアは一歩なかに踏みこみ、そして立ち尽くした。
< 117 / 182 >

この作品をシェア

pagetop