伊藤彩月♀25歳。職業はスポーツインストラクター&ショップの販売員でチーフという肩書きをもつ。

職場は"ウイングライフスポーツ"という全国展開のスポーツ用品店。中でも、彩月が働くこの支店は、都内の大型モールに設置されたテナントとして集客力も収益も大きい。

「伊藤チーフ、今日から羽生駿太郎は現場で経験を積むことになる。指導をよろしく頼むよ」

「はあ,,,」

目の前には三人の男性。一人はうちの親会社のボス、羽生社長。もう一人は社長秘書の古山さん。そして,,,本社の企画部から異動してきた羽生駿太郎25歳だ。

羽生社長は58歳。ウイングライフスポーツの親会社である羽生コーポレーションを一代で築きあげた熱血体育会系男だ。学生時代にラグビーをしていたという彼は、背も高く肩ががっしりしていて、ラグビーのタックルで潰れた両耳がギョウザのようになっているのが特徴的。

次男である駿太郎が大学に進学した際、デザイン学科でインテリアを扱うと聞き、スポーツ業界だけでなくインテリアや建築業界にも手を広げた猛者である。

一方の羽生駿太郎といえば、アイドル歌手のようにかわいらしい顔に華奢な体つき。身長175cmはありそうだが、肉付きが悪そうだ。愛想はなく、異動が腑に落ちないのかブスくれた様子で立っている。

「羽生駿太郎です。大学を卒業してから2年間、インテリアの制作部にいました。スポーツ用品に関しては全くの素人です。よろしくお願いします」

一流大学のデザイン学科を出た駿太郎だったが、羽生コーポレーションでの働きぶりへの評価は賛否両論だった。仕事を教えればすぐに覚える。頼まれた仕事は完璧にこなす。しかし,,,自分で商品開発をしたり売り込んだりといった意欲が全く感じられなかったのである。

インテリアデザインに専念できるようにとの父の願いも虚しく,,,だ。

そんな現状を見かねた父親が息子をこの部署へ配置替えしたということで,,,。

だいたいのことを店長から聞いていた彩月は、首を傾げながらも、すぐに気を取り直して大きく頷くと

「こちらこそよろしくお願いいたします!」

と大きな声で挨拶した。