「問題は食の楽しみだと思うの。生まれつき食の細い子や、食欲が落ちているお年寄りに食べる意欲を向上させるには、どんなメニューがいいかってことね」


 一日の業務を終えた私は、会社の更衣室で私服に着替えながら、興奮も冷めやらぬ口調で美千留を相手に熱心に語っていた。


「淳美ったら、本当に全力で企画に取り組んでるんだね。最近口を開けばそのことばっかり」


 半分呆れ顔の美千留に指摘されて、我に返った私は苦笑いした。


 あの夢のようだったモニター旅行から帰宅して、早いものでひと月が経つ。

 鬱陶しい湿気に悩まされ続けた梅雨も明け、重い灰色の空が一皮剥けた青空から注ぐ日差しは、もうすっかり初夏の様相だ。


 それに伴い気温も急上昇で、これまでのぐずついた天気の鬱憤を晴らすような暑さが続いている。

 退社時間になってもあまり気温が下がらず、帰宅前の女子社員たちがわいわいと集う更衣室の中は、中途半端な熱さが漂っていた。


「淳美、栄養士の資格持ってないでしょ? なのにメニューまで決めなきゃならないの?」


 ロッカーの扉に付いている小さな鏡と睨めっこしながら、美千留が口紅をサッと塗り直している。

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