エイゼンシュタインは、列強の隣国とも強固な同盟関係にあるだけではなく、貿易と金融の主要拠点であることもあり、王都は隣国の珍しい花や食材で溢れ、街の華やかさも賑わいも、隣国のどこにも引けを取らぬ素晴らしさだ。
 同盟国の誰もが一度は訪れたいと、できれば住んでみたいと夢見る国、エイゼンシュタインには妙齢で独身の王太子ロベルトがいる。しかし、ロベルトは幼い頃から気難しいことで有名で、そのこともあってか御年二十四歳になるというのに、未だ独身である。しかし、その事を本人も国王夫妻も特に問題だとは思っていなかった。
 本来ならば、誰もが狙う王太子妃の座であるが、平和が続いたエイゼンシュタインの貴族達は、他国の貴族達とは違い、王族との政略結婚よりも自由恋愛に重きを置くようになっており、王太子が二十歳を越えても、敢えて王子の婚姻話を国王に思い出させる大臣達もいなかった。
 隣国では、親同士が決めた政略結婚が当たり前であったため、隣国の貴族の子女たちはエイゼンシュタインに生まれたかったと、涙ながらに憧れる程だった。

 さて、そのエイゼンシュタイン国王の覚えもめでたいアーチボルト伯爵家には双子の娘がいる。
 長女のジャスティーヌは、どこに出しても恥ずかしくない伯爵令嬢で、美しく長い髪が印象的な美女であり、伯爵夫人は常日頃からジャスティーヌの良縁を望んでいた。
 次女のアレクサンドラは、姉のジャスティーヌとは違い、女装よりも男装を好み、幼い頃から男の子のように髪を短くし、アレクサンドラではなく、ジャスティーヌの従兄のアレクシスと名乗り、ジャスティーヌの警護と称して社交界に出入りしては、令嬢達のハートを独り占めすることを楽しみの一つとしていた。
 社交界にデビューしたジャスティーヌとは違い、一向に姿を見せないアレクサンドラは、伯爵の秘蔵っ子、深窓の令嬢と社交界で噂されるようになり、アレクシスが本人だとも知らず、アレクサンドラ宛ての恋文を託す貴族の子息も少なくはなかった。
 当然のことながら、まさか誰もジャスティーヌの警護をしているアレクシスがアレクサンドラ本人だなどと考えることもなく、アレクシスとアレクサンドラの秘密は家族と乳兄弟、信頼の置ける使用人たちによって固く守られていた。

 そんな折、同盟列強六ヵ国が出席する五年に一度の会議が催された。
 会議の後にはお約束の大舞踏会が開かれ、各国の国王、王妃、女王、王配、王太子、王太子妃もしくは、婚約者が大舞踏会に勢揃いした。
 その圧倒的な豪華さと、荘厳さの中で、エイゼンシュタイン国王リカルド三世は、自国の王太子ロベルトだけが独身であることに初めて気づいたのだった。
 もちろん、独身が悪いわけではない。一番の問題は、居並ぶ王子たちの最年長者がロベルトであることが問題だった。
 舞踏会であるにも関わらず、独身で婚約者のいないロベルトだけが一人、決まったパートナーがいないため、ダンスも踊らずただグラスを傾けていることに、父であるリカルドは、悲哀のような、悔しさのような、形容しがたい感情に襲われたことが、全ての事の起こりだった。
 前回の同盟列強六カ国会議の時には、独身の王子も多く、ましてや若くしてやもめとなった国王も居たのに、よりにもよって今回はロベルト以外全員にパートナーが居るという事に至り、『なぜ最年長王子のロベルトに未だ婚約者すら居ないのか?』『やっぱり、気難しい性格のせいか?』『人間性に問題があるのでは?』などと、陰口を叩かれているような気がして、リカルドの胸中は穏やかではなかった。

 同盟列強六ヵ国会議を無事に終え、リカルドは公爵家、侯爵家に手当たり次第にロベルトとの婚約を匂わせてみた物の『娘は既に…』や『殿下とはお歳が…』と、定型文のような回答を聞かされることになった。
 こうなったらと、伯爵家に使者を立てようとしてリカルドは自分の愚かさ加減に大笑いを始めた。
 居並ぶ重臣や王妃は、まさかショックで陛下はどこかおかしくなったのではと、冷たい物が背中を流れる中、陛下は笑い終わると満面の笑みを浮かべただ一言『アーチボルトをここに!』と告げた。

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