異世界で、なんちゃって王宮ナースになりました。
九話 月夜の教会で
 連合軍が勝利を収めてシェイドが真っ先に行ったのは、町の復興と圧政の見直しだった。

 元々王宮内は王位継承権のある第一王子と第二王子のふたつの派閥で割れており、議会でも常に意見が割れていたのだそう。

 しかしシェイドが国を追われ、事実上の最高権力者となったニドルフ王子は高額な税の徴収を民に強いた。しかもそれらは民の生活に還元される使い道ではなく、他国への侵略資金として使われたのだ。よって税が高額になろうが金に困らない貴族と民の間で深刻な貧富の差が生まれた。

 これによって民が貴族の邸に住み込みの使用人として奉公をする仕事が増える。傍から見れば給金をもらえて住む場所にも困らない割のいい職のように思えるが、報告に上がるのは低賃金で民に激務を課すなど、奴隷のように扱っている貴族の蛮行ばかりなのだとシェイドが話してくれた。

 直ちに王宮が徴収していた税金を還付し、民の仕事場を増やすよう労働環境を整えたシェイドのおかげで貧富の差が完全に消えたわけではないが、王宮を奪還してから三ヶ月の間に随分と緩和されたらしい。

 王宮内も火災で焼け焦げてしまった調度品が新調され、本来の煌びやかさを取り戻している。国の再建の目途が立ったので一週間前にミグナフタの兵とエドモンド軍事司令官は帰国した。

 今はシェイドの王位継承をいつにするかという議会が毎日開かれているのだとか。それを見届けたら、私はどうするのだろうと最近はそればかり考えている。

「若菜さん、ぼーっとしてどうしたんですか?」

「――え?」

 急に声をかけられて、私は手に持っていた処置用の布を落としてしまった。

 貴重な布なのに……。 

 この世界では物を使い捨てにできるほど物資にあふれているわけではないので、骨折の固定に用いた布もすべて再利用する。それだけものを大事に使っているのだ。

「すみません、驚かせてしまいましたね!」

 マルクが私の落とした布を拾って渡してくれる。もう一度洗わないとな、と苦笑いしながらそれを受け取った。

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