湖にうつる月~初めての恋はあなたと
1.ついていない幕開け
「ほんとにいいの?ごめんねぇ。お昼には戻ってくるから」


そう言いながらもうきうき楽しげにスキー板を担ぎ上げたのは、海山 亜紀(うみやまあき)25歳。

後ろで一つに束ねた栗色のつやつやの髪を揺らしながら私に手を振り去って行く。

長身でスタイル抜群の彼女はホワイトのスキーウェアがとてもよく似合うと感心しながら私も手を振り返した。


亜紀とは、日本でも名高い広告代理店『山の手エージェンシー』で一緒に受付嬢をしている。

広告代理店の受付嬢というと、華やかなイメージがあるけれど私はどちらかといえば地味系。

太ってもないけど、やせ形でもなく、身長もごく平均的。

顔も特に目立つ印象ではなく、褒められても、そのつぶらな瞳がかわいいね、なんてその程度だ。

地味な容姿も禍いして、性格にいたっては昔から引っ込み思案で社交的とはほど遠いタイプ。

大学卒業を前に、そんな私の就職先を案じた父が、自分の知り合いに頼んで紹介してもらったのがこの会社だった。

ただ残念なことに当時空いてるポストは受付嬢だけで。

父も悩んだけれど、少しでも私の引っ込み思案が解消されればと、思い切って私をこの会社に放り込んだのだ。

本当にありがた迷惑とはこういうことをいう。

ただ、教えられたことは昔からコツコツ真面目にするタイプだったから、真面目さを売りに今のところ外されることなく受付嬢をして今年で7年目になる。

私、谷浦 真琴(たにうらまこと)28歳と10ヶ月。ってことはもうすぐ29歳。

30歳までには他の部署に追いやられる可能性大だ。それまでに寿退社でもできればと密かに目論んでいるんだけど現実はそんなに甘くはない。


そうそう、話を元に戻すと、亜紀とは今北海道にスキーに来ている。

二人だけで来てるんじゃなく、いわゆる社内の労働組合主催の毎年恒例年末年始スキーツアーに若手社員達と参加していた。

若手と言っても私なんてぎりぎり若手の域だけどね。

なのにどうして、私はホテルのロビーで一人で座ってるかというと・・・。

そもそもスキーがそんなに得意ではないのに、亜紀に無理矢理誘われて参加したのが問題だったわけで。
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