曖昧なポジション
曖昧なポジション


私の好きな人には、



   大切な人がいる。







「見たい映画があるんだよ。日曜、開けておけ」



隣りの席から声が掛かり、複雑な心境になる。

日曜というせっかくの休日に、予定のひとつもない寂しい女だと思われているのだろうか。



「行かない」


いつもは間髪入れずに了承する私が断ったことが気に入らないのか、男は眉を潜めた。

整った顔に刻まれた眉間の皺。



「なんで?」


「なんで、って。私にも都合があるの」



手元にある資料に集中しているフリをして、話しを終わらせようとしているのに。


男は椅子をくるりと向けて身体ごとこちらを向いた。


本当に困る…。



「なんで?」


また同じ質問を繰り返される。
先程よりも苛立ちがこもった声。



自己中な男。


自分の都合で私を弄ぶ。



弄ばれる私は、本当に馬鹿だ。




「……」


「…あ、そっ。じゃぁ良い」



無言の私に対する、彼の答え。




都合が悪いなら日程を変えようか?

それくらい言ってくれても良いのに。



あっさり引き下がった彼を見て今度はこちらから近付いて行ってしまうことは、私の悪い癖。


もうやめなきゃ、って分かってる。

でも…。



「……行っても、いいよ」



あ、またやっちゃった…。



「じゃ、日曜に」


「うん」



こんな恋、止めてしまえばいいのに。



積もるだけの想いに、私は今日も翻弄される。



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