おやすみ、お嬢様
「いつまでふてくされているんですか?お嬢様」

リビングでソファに座ってクッションを抱えている私に、再び榛瑠は声をかけた。

いつまでだってふてくされてやるんだから。

彼の小さなため息が後方から聞こえる。

私が身なりを整えて部屋に入って来た時、榛瑠は窓際で壁にもたれながら立って本を読んでいた。

これも最近知ったんだけど、彼はあまり座って読まない。なんだか知らないけれど、彼的に立っている方が読み進められる、らしい。

マンションの大きな窓から入ってくる柔らかい早春の光が、生成りのシャツに身を包んだ榛瑠をつつんでいて、一瞬見とれてしまった。

それでもって、見惚れた自分に腹をたてる。

本当にこの人は見かけだけは描いたみたいにキレイなんだから。でも、見た目で騙すあたり悪魔並みだわ。

で、私はそのまましばらくふてくされている。

「そんなにいつまでも怒らないで、一花」

榛瑠がソファの背もたれ越しに言う。私の座っている横に、ぽんと本が置かれる。英語表記の題に銀色の愛想のない表紙。日本語で書かれてても私には理解不能系のヤツだ。

「何がそこまで気に入らないんです?」

「……だって、せっかく早く来たつもりだったのに、もう、お昼だよ」

私は振り向かずに言った。時計がそろそろ正午を示そうか、という時間だった。

「それはどちらかというと、眠ってしまったあなたのせいでは」

言い返したかったが、やめた。下手に口を聞くといつも彼のペースになってしまう。

代わりに私は黙って顔を横に向けた。
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