姉の婚約者
姉のご乱心
「ゆりちゃん、私結婚するわ!」


 そんなことをうちの姉が言い出したのは、朝食の片付けがあらかた済んだあたりだった。そう言われたとき妹なら何て返すのが正解なのか、私は未だにわからない。なにも結婚に反対なんじゃない。結婚自体は構わないし、むしろ喜ばしいことだとも思う。姉さんは適齢期だし、ただ、姉の性格に難があり、両手を上げて祝えない。
 その単純な思考回路がそうさせるのか、純粋な心をを28まで引きずったからなのか、大抵付き合うから結婚までの決断がとにかく早い。これで5人目。さて、どう返そうかと考えたが、

「へぇー、よかったじゃん。前のタカくんみたいに思い込みだけで走らないでね」


 祝いつつ釘を刺す。これでいいだろう。文句ないでしょ、これでまた駄目でも八つ当たりしないでよね。

「大丈夫だよ〜。だって彼も結婚しようって言ってくれてるんだよ、でねー、彼氏、吸血鬼なの」


……
えーと、そうかぁ、吸血鬼かあ

「彼氏、ヤバイ人じゃん……、結婚とか言ってる場合じゃないじゃん、別れなよ」

「いい人よ?」

「怖い人だよ、自分の事を吸血鬼だっていう人は怖いよ。」


姉の恋はいつもフラれて終わる。どうしてかはその都度違うようだが、私には同じように思う。ここで姉のプロフィールを確認しておこう。

谷村佳奈(たにむら かな)28歳
仕事は設計事務所の事務員。
走り出したら止まらない。我が家のハーレーダビッドソン。馬力に任せて走るので、よく事故る。

ちなみに私は、末っ子。
谷村ゆり子(たにむら ゆりこ)24歳
最近、会社を辞めて実家に帰ってきた押しも押されぬ無職だよ。


あと、兄もいるがまあ離れたところで暮らしているから紹介はしない。

「姉さん、仕事行きなよ。もうそろそろ八時半。」

「うん、じゃあ宜しくね。ちゃんと再就職先探しなよ?」

 余計なお世話だ。そんなことわかってんだよ。
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