憎い夏
夏の雨

仕事で車を運転している。

夏も終わりだと言うのに、外に出ると熱さで参る。

日射しも強く僕は、サングラスを掛けている。

一瞬だけパラパラと雨が降った。

僕は、サングラスを外して公園の前を通る。

その時心の中に何かが、強く動いた。

僕は、失敗したなあと独り言を言う。

この公園で晩年の父は、甥っ子と僕と遊んだ。

晩年の父の唯一の楽しみは甥っ子と遊ぶ事だった気がする。

脳内出血で障害が有りながらも甥っ子とキャッチボールや簡単な野球を楽しんだ。

鳩が来るので甥っ子を喜ばせる為にパンの耳を持って行き鳩を呼んだ。

今年の七月に死んだ父と甥っ子と僕にとってこの公園は特別な場所だった。

車を少しゆっくり走らせながら公園を見ると鳩が所在無げに沢山集まっていた。

僕は、サングラスを掛けてアクセルを踏んだ。

雨は、一瞬でやんだはずなのに僕の目の前が霞んで見えた。

鳩は、父を待ってるのかと勝手に思う。

父は、もう来ないぞと鳩に教えようかと真面目に思って思わず笑った。

久しぶりに笑った気がするが、目の前が霞んでしまいアクセルを少し緩めた。

八月も終わる。

この暑い夏は父まで飲み込んだのだ。

僕には思い出と悲しみだけを残して。

父は、死ぬ間際何度も寂しいと泣いた。

僕は、車を停めてハンドルを何度も叩いた。

ドアを開けて泣いたが、涙はアスファルトに落ちると直ぐに消えた

父を飲み込んだ夏は、まだまだ続いている。




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