上京した僕が馬鹿でした。
失業
「いらっしゃいませ〜〜 新機種が出ましたよ〜〜」

客「いらねーって。いいから寄ってくんなよ。」

「あ、申し訳ありません。」

「いらっしゃいませ〜〜 簡単にお見積もりもできますよ!」

客「いや、買う気ないから…大丈夫です…」

「ありがとうございます…」

男は家電量販店「リトルカメラ」で携帯の販売を行っていた。

「いらっしゃいませ〜〜 お客様にぴったりな最新スマホのご用意がございます!」

客「…」

「(あーあ、全然楽しくない。仕事つら)」

男は限界を感じていた。

客「あの…あの…ちょっとすいません!」

「え!?あ、どうされましたか?」

客「どうされたじゃないよ!ずっと声かけてるのに聞こえてない?もういいです。」

客は帰って行った。

その夜、男宛にクレームが入り、リトルカメラ店長に呼び出される。

リトルカメラ店長「なんだっけ?君名前は?」

「佐藤です。佐藤修二です。」

リトルカメラ店長「ずいぶんと平凡な名前だな!!!」

修二「は、はい。(それ今関係ないだろ…)」

リトルカメラ店長「はいじゃねーんだって!佐藤さん。そんな反応しかできないから、お客様にも気づかないんだよな?」

修二「は、はい。」

リトルカメラ店長「なに?君反省してないわけ?接客なめてるわけ?」

修二「は、はい。」

リトルカメラ店長「は、はい!?」

修二「あ、いいえ。はいというかなんというか。」

リトルカメラ店長「佐藤さん、もう大丈夫。無理しないで、帰っていいよ。君みたいなの店舗に必要ないから。」

修二「ええ?来なくていいって、仕事はどうしたら?」

リトルカメラ店長「そんなさ、やる気のないやつの今後なんて考えてるほど暇じゃないの、どうぞお帰りください。」

その夜、佐藤修二 25歳 3年ほど勤務した職を失うこととなった。


修二「はあ…なんだろ。自分がすごく惨めだ。マンネリした職場であからさまにやる気もなく働いて、プライベートもなんにも充実してなくて、職場でも家でもストレス。仕方ないか、それは辞めさせられても。」

修二は帰り道、こんなことを考えながら歩いていた。

ニートにへと転進してしまった修二は、唯一のストレスのはけ口、お酒をこれまでかとコンビニで買い占め、家に帰った。

修二「あーあ、飲むか。ビール。」

缶から炭酸が解放された音が無音の部屋に響く。
風呂も入ることもなく、ただ、ただ飲み続けた。

修二「やべっ、気づいたらもう8缶目か、結構酔っ払ったな。今日はここら辺でやめておくか…って別に明日なんて気にしなくていいのか。はあ、テレビ見よ。」

修二はなにを見るでもなく、テレビをつけた。
そこでは「人気女優大集結」という特番が放送されていた。

修二「めっちゃ、可愛いなやっぱ新谷メイって。でも、もう30歳になったんだ、早いな。いや可愛いな。30歳でもこんな清純さで、全く崩そうとしないクオリティ。」

ふとつけたテレビで、大人気女優「新谷メイ」がもう30歳になったことを知り、その清純さと透明感に驚かされた。

修二「あーあ!どうすっかなー!これからどうすっかな…。」

修二は気持ちの浮き沈みが激しくなっていた。そんなことを繰り返しながら気づけば眠りについていた。


そして1週間ほど同じ日々は続いた。

修二「あー、朝か。何にもない最高な朝だ。ふぅ、抜くか。」

修二は携帯を左手に持ち、お気に入りのAV女優の動画を探し、右手にいちもつ。
慣れた手つきで、シコりはじめた。

修二「(あ、ダメだ…出そう)」

「プルルルル…プルルルル…」
修二が、イクかイカないかくらいの瞬間で急に動画が止まり、電話がかかってくる。

修二「なんっだよ!こんな一番大事な時によ!誰だよ!」

修二はキレていた。
ただその反動で、全く感じることなく、射精をしていた。

「プルルルル…プルルルル…」

修二「え、おじさん?」

電話の相手は、修二のおじさんで修二の父の弟。修二は興奮を抑えられていないのか、息が荒いままだった。

修二「はあはあ、も、もしもし…どうしたのこんな朝に」

おじさん「あー!ひっさしぶりだな!ごきげんよー!」

おじさんは昔からやたらとハイテンションなんだ。

修二「ごきげんようって、どこのお嬢様ですか…」

おじさん「朝からいいツッコミするじゃーん!」

修二「え?それだけ?切るよ?(陽気なおっさんだなあ)」

おじさん「いやいやいや!まて!修二まて!」

修二「なにさ、だから本題…」

おじさん「修二さ、お前、東京来ないか?」

修二「ととと、東京?なんで?」

おじさん「聞いたぞ、修二、仕事クビになったみたいじゃんか」

修二「(あー、親父。おじさんに伝えたのか)そうだけど…それと東京って意味があんまり…」

おじさん「あれ?知らなかったかな?おじさん今、東京で居酒屋やってんのさ〜〜」

修二「そういえば、そうだっけか(1回も行ったことないけど)」

おじさん「んでんで、本題はここから!東京来ておじさんの店手伝ってくんねーかい?というより、手伝え!強制!」

修二「い、いや、無理無理無理!ごめん悪いけど。」

断るには理由があった。
昔、俺は飲食店で働いていた。バイト含めると大体4年くらい。
ただ、職場に恵まれず、就職しようとバイトしてたところは潰れて、とりあえず働いていた居酒屋はブラックすぎて終了。
最終的に働いたカフェも企業縮小でクビになってトラウマ続きだった。

おじさん「なーんだ、昔のこと気にしてんのか?安心しろ、そんなこと。なんて言ってもお前のおじさんだ、従業員って前にな。絶対に悪いようにはしない!約束するさ!」

修二「そんなこと言っても、こっちは北海道だよ?東京に行ける費用も無ければ、飲食店で働ける勇気もない。」

修二は北海道生まれ北海道育ち。道外で働いたことなどない。

おじさん「大丈夫だ、費用なら任せろ!おじさんが出す!だから来いって!正直、人が足りてないんだ!」

修二「なんで?今までどうして来たんだよ」

おじさん「違うんだ、今働いている子達が5人いるんだけど、今月で3人も辞めちゃうんだよー!助けてくれえ〜〜」


修二「助けてって、そんなこと急に言われても…」

おじさん「修二がただ東京で手伝ってくれるだけでいいんだ!それだけで!」

修二「(なんにもやることないし、行くだけ行ってみるのも…)う、うん…」

おじさん「はい!決まりな!来週までに荷物まとめて来いよな!」

修二「来週!?ままま、待って!退去とかあんでしょ!」

おじさん「どーにかなる!じゃあな!」

プープープー

修二「電話を切られてしまった…。」

おじさんはいつも勝手だ。
こっちの気持ちなんて全く考えてはいない。
あーあ、東京なんて俺にはハードルが高い。
でも、勢いで「うん」と言ってしまった…

修二「仕方ないか。仕事をしないと、生きていけないわけだし。って、布団めっちゃ濡れてんじゃんか!あー忘れてた、東京への驚きで忘れてたよ。本当抜き損…もうこの歳で2回目、3回目なんて結構厳しいのにな!あー!おじさんの馬鹿野郎…」

修二は相当な喪失感に襲われた。大事な1回が失われてしまったからだ。

修二「何言ってんだ、俺…」

そして、凄まじい賢者タイムへと突入した。

1週間後

修二「ついにこの日が来たか…」

修二は新千歳空港にいた。

修二「とりあえず、退去費用やら、飛行機代立て替えやらで、もう貯金ゼロだけど、生まれ変わった気持ちで、ゼロからスタートだな。」

飛行機に乗る前に、一応親友と思っているみっちゃん(南口優太)が来ていた。
行くなんて伝えてないのに、なぜか来ていた。

みっちゃん「おーい!修二!俺はお前を忘れないからなー!いつも心にお前はいるからなー!」

新千歳空港のど真ん中で、みっちゃんは叫ぶ。

修二「(恥ずかしい、恥ずかしすぎる。)みっちゃん!俺、死んだわけでもないし、2度と会えない訳でもないから!」

みっちゃん「またクビになるなよー!生きて帰って来いよー!」

修二「(あいつ全然話聞いてないな)わかったから!もう大丈夫だから!ありがとな!」

みっちゃんはこっちを向いて敬礼をした。修二も敬礼を返した。
この敬礼は、俺らが中学の時から、目が合ったら敬礼という謎の縛り挨拶としてこうして10年ほど経った今でも行われている。

5分経っても目は会い続け、敬礼は終わらなかった。
しびれを切らせた修二は、敬礼を辞め、飛行機へと乗った。

修二「ばいばい!みっちゃん!また会おうな!」

みっちゃんとも久しく合っていなかった。
俺にもまだこんな友達が居たんだな。
新しいことに挑戦しようとしている時に、こういう存在があるって、大切なんだな。
ありがとう。みっちゃん。
そして、さようなら北海道。
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