『風間くん。もしよかったら、私の娘と会ってもらえないかね?』

青柳社長にそんなお願いをされたのは、昨年の冬のことだった。

僕は当時恋人もおらず、特に断る理由もなかったために承諾し、百合と出会った。

彼女は美しく自信家で、多少ワガママな面はあったものの許せる程度のもので、僕たちは月に数回食事をする仲になった。

そして少しずつ互いを知り緊張がほぐれてきた頃、社長が結婚話を持ち出した。

「私には百合以外に子どもはいないし、役員の中にも後継者に、と思える人材がいない。それで頭を悩ませていたら、きみが風間教授の息子だと知ってね。娘婿も、次期社長も、この男しかいないと思ったんだ」

僕の父は、大学の薬学部で教授をしている。

昔から研究に没頭してばかりの人だったが、それが実を結んでどうやらかなり高名な教授になっているようで、日本薬学会の権威などと呼ばれている。

社長はどこからかその情報を聞きつけ、会社のために父のネームバリューが役に立つだろうと踏み、僕を百合と結婚させたくなったらしい。ようは、政略結婚だ。