隣は何をする人ぞ~カクテルと、恋の手ほどきを~
呼び鈴を鳴らして数十秒。応答がない。まだ寝てるのか外出中か……やっぱりはやまったかも。……画像が記録に残ってしまって、不審に思われないだろうか。
後悔しながら引き返そうとしたときに、「はい」と応答の声が聞こえる。

「隣の村井です……」

何しに来たんだとは言われなかった。
ドアが開き「どうした?」と出迎えてくれた五十嵐さんの姿を一目見て、どきりとする。

シャワーを浴びたばかりなのか、濡れ髪で肩にはタオルがかかっていた。裸ではなくタンクトップを着ていたけれど、じろじろみてはいけない気がして、私は目を泳がせた。

「あの、実家から届いたんで、良かったら……」
「トウモロコシ? 旨そう」
「とってもおいしいですよ。茹でたてです」
「じゃあ、お茶くらい淹れるからどうぞ。アールグレイのいい茶葉があるから、アイスティーでもつくろうか?」
「まさかの、ティーバッグではない、……ちゃんとした紅茶?」

いらっしゃいませ、店内へどうぞ、冷たい飲み物ありますよ。おいしい紅茶ありますよ。脳内で仕事着の五十嵐さんが営業スマイルで囁き、私はまたもや図々しくも食べ物に釣られてしまった。


   ◇ ◇ ◇ ◇


五十嵐さんの部屋は、私の部屋と配置が逆になっているだけの、同じワンルームだった。ソファーベッドが入っていて、私が部屋の中に入るとさっさと布団をしまい、座る場所をつくってくれた。

白っぽい家具を置いている私とはこれまた逆で、黒のソファーに黒のテーブル、……男の人の部屋だ。物が少なくて片付いているわりに、台所周りには調味料やお酒や料理器具が、ところ狭しと並んでいる。

「お料理するんですね……」
「まあね、好きなんだ。そのうち自分の店を出したいと思ってる」  

慣れた手つきてお湯をわかし、プレス式のティーポットの準備をはじめている。その姿がかっこよくて、つい意識してしまい落ち着かなくなる。
紅茶が出てくるまでの間、クーラーの効いた部屋なのに、手汗をかいてしまった。

「はい、おまたせ。昼まだだろう? ホットサンドで良かったら一緒にどうぞ」
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