花火を見るために五十嵐さんが案内してくれた場所。それは彼の勤め先のバーだった。

「この屋上からよく見えるんだ。店のオーナーはこのビルの持ち主でもあるから、今夜は特別に貸してもらった」

まだ時間があるからと、まずは店の中に通される。

「さて、花火が打ち上がる時間までに、少し飲もうか」

私にイスをすすめたあと、仕事中の時のようにカウンターの向こう側に立った五十嵐さん。照明とエアコンをつけ、さっそく何か作業をはじめている。
がりっと固い物を削ぐような音が店の中に響く。今日はBGMがついていないから、小さな音でもよく聞こえた。
仕事をしている五十嵐さんの姿はかっこいい。
もしかしたら、カクテルに使う氷の、丸い形をつくっているのかな? せっかくだから仕事をしている姿を、彼が作り上げるものをよく見たい。でも、五十嵐さんは私に背を向けていた。

「何を作っているんですか?」
「……ん? いいもの。待ってて」

覗き込むようにして声をかけたが、五十嵐さんの大きな背中に阻まれてしまう。
彼は鼻歌を歌いだした。知らない曲だ。でもどこか懐かしく思える旋律。私は、行儀悪く頬杖をつきながら、しばらく黙ってそれを聞いていた。

「外は暑かったから、まずはグラニテをどうぞ」
 
そうして目の前に置かれたのは、カクテルグラスに盛られた淡い黄色の氷菓子。ミントの葉も添えてある。
ほら、と五十嵐さんに促され、スプーンですくって一口食べた。
口の中で広がってゆくのは、柑橘系の酸味、そしてなじみのある果実の甘味。ふうわりとアルコールが香る。

「レモンとりんご? これ、すごくおいしいです!」
「アルコールが入ってるけどそんなに強くはないから、莉々子ちゃんでも大丈夫」
「……私、お酒弱いのバレてますよね」
「まだ、二十一でしょう? その年で強いショートカクテルは早いよ。酒は楽しく飲むものだ。君には君にあったカクテルがある」
 
 私にあったお酒。一体どんなお酒だろう。
 そんなことを考えていると、五十嵐さんはたくさん並んでいる瓶の中からひとつを選んで、私に見せてくれた。きれいな琥珀色の液体が入った瓶だ。