「グラニテに使ったのは、このカルヴァドスという酒だ。フランス産のアップルブランデーだね。口当たりもいいし、ライムジュースなんかとも相性がいい。香りが豊かだから、薄めて飲んでも酒の美味さは十分味わえる」
「りんごのお酒ですか」
「そう、りんご。君にぴったりだろう」

りんご農家の娘だからかな? 理由がなんであれ、五十嵐さんが私のことをイメージして選んでくれたお酒は、特別に思える。名前もかっこいい。カルヴァドス、カルヴァドスと忘れないように何度も心の中で繰り返した。

しゃりしゃりとした食感の甘い氷の小さな粒は、私の口の中で一瞬にして溶けていった。
グラスが空になったタイミングで。今度は「乾杯しよう」と、五十嵐さんが新しい二つのグラスを運んでくる。
カウンター越しに片方を受け取り、グラスを軽く合わせ、慎重に一口。普通のビールに見えたけれど、味は少しだけ違う。ビール以外の何かが入っているようだ。

「これもカクテル?」
「うん、シャンディ・ガフ。ビールとジンジャーエールが半分ずつだ」
 
だったら、アルコールの濃さも半分だ。グラス一杯くらいなら、私でも酔うことはない。そのはずなのに、頬が熱い。五十嵐さんが私のことをじっと見つめているせいだ。
私は、恥ずかしくなって視線を泳がせた。うっすらとひげの剃り跡がある顎、シャンディ・ガフを飲むと上下に動く喉ぼとけ、太い首。全部私とは違うもの。男の人が持っているもの。

自分にないものに触れたいと思うのは、今まで他の誰にも抱いたことのない感情だった。

先日まではただの隣人だった人。やまいのように急速に変化していく心に、戸惑う気持ちも確かにある。でもそれより怖いのは別のことだ。
 
残りのシャンディ・ガフを飲み干して私が顔をあげた時、五十嵐さんはちょうど時計の針を見ていた。

「お、そろそろ時間だ。おいで、屋上にあがろう」

にこっとほほ笑んだその顔が、少年のようにも見えた。花火を見たいなんてただの私のわがままなのに、嫌な顔ひとつしないで、一緒に楽しもうとしてくれている。

(私、この人のこと本気で好きだ……)