秋のはじまりは憂鬱だった。

楽しかった夏休みが終わると、五十嵐さんと会える時間が確実に減るとわかっていたからだ。
夏休み中は、お昼前に五十嵐さんを起こしに行って、一緒にお昼をたべることができた。でもこれからは平日に合うのが難しくなってしまう。

「莉々子、なにぼーっとしてるの?」

食堂で、トレーに載った昼食に手を付けずに五十嵐さんのことを考えていた私に、友人が声をかけてくる。大学で一番仲良くしている美樹だ。

「まさか、新しい彼氏と上手くいってないの?」
「そんなことないよ。……ないけど、学校がはじまって、会う時間が減ると寂しいな……なんて」
「のろけかよ! ほらお土産あげるから、全部詳しく話しなさい。どれだけ楽しい夏休みを過ごしたのか、じっくり聞いてあげるから」

彼女の方こそ、家族と一緒にヨーロッパの旅行を満喫したはずだ。パリに親戚がいるとのことで、美樹は家族が帰国したあとも、一人で長く滞在していた。
そんなわけで、美樹と直接顔を合わせるのは久しぶりだ。お互いに休暇中に買ったお土産交換会となるはずだったが、美樹に差し出されたものを、何気なく受け取った私は驚いた。

「ありがとう……って。え! これなに?」

誰でも知っている、……知っているけれど簡単には買えない、パリ発の有名ブランドのロゴが入った紙袋。持った感じだと、重さもある。リップ一本だって免税店でも十分高いはず。でもこの中身はきっとそれ以上に高価な物が入っている。

「オードトワレ」
「嬉しいけど、高価すぎじゃない?」

これは、学生同士でやりとりするお土産の枠からはみ出てしまっている。私が用意したお土産なんて、日帰りで隣県に遊びに行った時の定番のお菓子なのに。

「大丈夫。選んだのはもちろんわたしだけど、出資は兄さん。お詫びだって」
「なんで?」
「兄さんが悪いことしちゃったなぁって。あの男、自分から申し込んでおいて、あっさり莉々子のことふったわけでしょう?」