隣は何をする人ぞ~カクテルと、恋の手ほどきを~
もうっ、と少し頬を膨らませて言った「あの男」とは、どうやら吉沢さんのことらしい。

吉沢さんとの出会いは、美樹が私と一緒に遊んでいた時に撮った写真を、お兄さんに送ったことにはじまる。何かのきっかけで吉沢さんが私の写真を見て、会ってみたいとなり、お兄さんを通して紹介されたのだ。
結果的に始まりも終わりも相手が決めた。でも、それは美樹のお兄さんのせいではないし、私の中ではすっかり、掘り返したら恥ずかしい過去の出来事になっている。
 
「気にしてないし、酷いことされてないし、もうとっくに吹っ切れたし」
「そりゃそうだ、新しい彼氏とラブラブだもんね。まぁでも、深く考えずもらっとけるものはもらっておこうよ。わたしも同じもの買ってもらったし!」

こういう時の美樹は強引だ。本当にいいのだろうかと戸惑いつつ、突き返すのも気が引ける。それに、美樹とお揃いと言われたら嬉しくなる。彼女は生粋の都会っ子で、憧れの存在でもあるから。
 結局私は美樹からのお土産を受け取って、代わりにもならないけれど、買ってきたお菓子を渡した。

「で、で? 年上のお隣さんと、どこがどうしてそうなった?」

興味深々で尋ねてくる美樹に、私はしどろもどろになりながら説明する。

「ええっと、フラれたら現場に偶然居合わせて、そしたらなんか優しくて……急に意識するようになったの。……でも、なんで五十嵐さんが私に構ってくれたのかわからない」
「それって、前から目をつけられてたんじゃないの?」
「それはない! 彼、すごい大人なの。いまだになんで私を? ってすぐ不安になる」

遊びとか、大勢の内の一人ではないことはわかっている。五十嵐さんは誠実な人だ。私が信用していないのは、五十嵐さんではなく自分のこと。

「たぶん、五十嵐さん女性に不自由しないと思うんだよね。私なんか、すぐにがっかりさせて、飽きられるかもしれない」

経験値のなさは自信のなさに繋がる。夏の間は、先のことなんか考えられないくらい、楽しい「今」のことで頭がいっぱいだった。不安になる隙間なんて与えられなかった。でも、休暇の終わりと同時に現実が見えて「私でいいのかな?」と、いつか訪れるかもしれない終わりに、怯えている。

美樹は、要領を得ない私の話を黙って聞いてくれる。そして、ふむふむと頷いたあと、何かを思いついたように切り出した。
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