『んーむ...』
『どーした?』

すっと影ができて見上げると、いくつかのバインダーを持った佐川さん。

『はい、回覧』
『ん、ありがとうございます』

ニコニコしてる彼の顔は結構カッコイイ。
悟られまいと、手渡しされたバインダーに目を通す。

『あら、電話してくれたんだね?この件』
『そ。気にしてたろ?』
『うん!さすが、仕事はやいですね~』

キイッ...と背もたれに寄りかかりながらバインダーに落としていた目線を向けられて、思わず微笑む。

『それと、この件なんだが、やってるよなぁ?』
『う、うん。よく知ってますね』
『そりゃーな 笑』
『田丸さんから頼まれて、ちょっとやり始めたんですが、色々気になりだしちゃって』

そんな顔を見ながら、なんだか気になってるから、とは言えないが、同じ係として知ってる素振りをする。

『ここの管理状態がわかんないんすよね。気になるところ』

真面目な顔をして、パソコンのリストとバインダーを見比べている。

『...行く?』
『ん?』
『一応、俺も関係してるし、行かなきゃと思ってたから...一緒に行くか?』
『いいの?連れてってくれるの?』
『いいよ。今日は人がいないからまずいけど、来週にでも、行こうか』
『ありがとうございます!嬉しい!』
『くくっ...じゃあ来週な』
『うん!』

うちの係は名前の通り環境に関するところ。前のところもそうだったが、ここはちょっと特殊な環境測定なので、一般的な川が汚れた、空気が汚れた、という苦情は来ない。

着任前の部署では、現場に行ってサンプリングをして分析。化学屋とするとなかなか楽しいところだった。
驚くのは、その前の係長である木梨さんがみちの知り合いで、よく飲みに行く関係だとか。世間は狭いってこれだな、なんて思う。

さて、俺の係はと言うと。定点観測とは別に、市民に貸し出す機器も扱っており、それを担当しているのが嘱託の田丸さん。いい歳したじーさんだ。
データの取りまとめや効率的な考え方をしてる本田が加わってから、恐ろしい程色々わかる。

『...これね、実はこういう理由なんですよ』
『...はぁ?!』

同じ時期に来た割に、情報を飲み込むのが早いようで、俺よりも詳しい。
考え方が近いなって思ってから、気にだり出したのも事実。
田丸さんは現場担当だから、基本的に内勤のコイツは事務作業が得意なようだ。最も、現場の担当も持っているようだが、ほぼ中にいて県や国の担当者とやり取りしているようだ。


『少しまとめたらご報告しますね』

目線を上げて言われる。心做しか心臓がうるさい。
『頼む』
静まれ、心臓...。

少ししてからバインダーを持ってそばに来る。
『佐川さん、出来ました』
『...お?はやいな』
『いえ。これ』
『さんき......はぁ?なんだ、これ?どゆ意味だ?』

ちょっとずさんな体制に苛立つ。

『見たらわかるでしょう?わけわかんないのは私も同じですからね』

チラリとコイツのデスク越しに、書類の山と化した田丸さんのデスクを見る。

『はぁ...。で、これの意味はこーゆーことか...。これ、データくれないか?』
『ん、わかりました。どこに入れます?』
『メールか...そうだな、俺のとこでいいよ』
『了解です』

俺のフォルダに新しくできた投げ込み用フォルダ。

『更新していくので、たまに見てくださいね』
『ん、わかった』

急に距離が縮まる。
気が付くと目で追う。傍に行きたくなる。
そんな気持ちが出てきていた。

『忙しいとこごめんなさい』
『ん?』

バインダーに目を落とし、俺の脇にしゃがみこむ。椅子に座った俺の目線に合わせるように。

『これ、どう思います?このサイクルなら、来年楽ですよね?』
『どれ...。おぉっ!いいじゃん、これ!』
『でしょ?ふふーん』
『これだと...この回の分全部飲めるな?』
『勿論飲めます』
『いいな、これ!時間かかったろ、ありがとな』
『いいえ~。暇ですから 笑』

時折笑いながら見つめられると、ドキドキしてしまう。
この人の低音と笑顔はほぼ犯罪だと私は思う...。

田丸さんは、現場と装置のメンテナンスや管理も引き継いでいるらしいが、決定や相談は佐川さん頼み。それのお手伝いをしていて、佐川さんとの仕事が増えている。腹が立つけどちょっと感謝 笑。

『ん』
『っ!!』
ボーッと立たれると驚く。
『なんだよ 笑』
『いや、びっくり...して...』
『なんでだよ?笑。これなんだけどな?』

相談していた案件の考えが纏まったのか、説明される。

『それは理想論ですが、具現化した時に手間かかりません?』
『んー、それはアル』
『だけど、1回手間かけちゃえばいいんですもんね、このサイクル』
『だろ?』
『これで作り直しましょう』

パタパタパタっとキーボードをタイプし、俺が居るのを忘れてるようだが。

『...それと』
『はい?』
『この体制なんだが、ちょっと不可解なとこが多い。知ってるところを教えてもらえないか?』
『あら、勿論です。私も分からないとこありますが、知る限りの内容データにしておきますね』
『あぁ、頼む』

時折メガネを押し上げながら、むー、とファイルを眺めている姿に思わずにやける。
急ぎの用では無いのに、つい、声をかけてしまう。参ったな...、年甲斐もない...なんて思うが、余裕のある大人でいないと、とひた隠す。

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