元カノと復縁する方法
4.三人の男
「で、どうだったの。」

旭は食堂に来ていた。正面から声を潜めて聞いたのは、藤堂千夏(とうどう ちなつ)。デザイン部に所属する、旭と颯の同期だ。

「どうって・・何もないよ。」

へー、橘、手は出さなかったんだ、と感心したように言う。颯のように簡単に手を出す人間ばかりだと思わないで欲しい。
橘の子犬のような無邪気さに旭は強く断りきれず、結局、マンションの前まで一緒に歩いて帰った。警戒する気持ちが全くなかった訳ではないが、橘はそれだけで、満足そうに手を振って帰っていった。
ただ、何度も聞かれて困ったことがある。

「別れた彼氏って、瀬戸口さんですよね?」

酒の回る頭で、違う違う、と笑いながら答えたものの、橘はほぼ確信を持っているようだった。
そうだとも言っていないのに、家の前に着いた時、真面目な顔をして彼は言った。

「俺が、余計なこと言いました。ほんとに、すみません。」

頭を下げる橘に、言葉が詰まってしまった。

「今日は、それを謝りたかったんです。」

そうじゃないと、次に進めない。そう小さく言った。
私からの言葉を待たず、橘は「じゃ、また明日。」と、会社では見せない大人びた顔をして、去っていった。
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