王子様とブーランジェール




なっ…何っ!



頭から何かが飛び出そうな感覚を覚えた。

へらへらと笑いながら、俺の背中を更にポンポンと叩きまくる。

「頼んますよー?竜堂のダンナ?」

ちょうどそこでケータイの着信音が鳴る。

松嶋はポケットからケータイを取り出して、画面を見ていた。



な、何?何!

今の奇襲、何?



あまり怒鳴らないでやって?

竜堂サンダー、弱い者イジメに見えるから。



…え?俺が弱い者イジメをしているとでも?

桃李を…イジメているように見えてるとでも!



ガーン!!



…だから、あそこでスタップ細胞だったわけか。

スタップじゃなく、ストップと言おうとしたのか?

俺が雷を落とそうとしているのを、制止した。

竜堂サンダー(命名:陣太)を食い止めた。

桃李を庇って…!



これは…。

俺、まるで悪役?!



松嶋は…悪者の俺から、お姫様を守ったヒーローか?!

だから、ダンナなの?!

悪名高い響きだもんな、ダンナ!



なぜ、こんな立ち位置になってしまってるんだ!



(ガーン…)



あまりにもショックすぎる現実だ。

俺、イジメっこなわけ?

桃李をイジメてるように見えたワケ?

ありんこ踏み潰す小学生みたいな?



だからか。

桃李が松嶋と一緒にいるワケは。

だからか。

桃李が俺に対して、ビビってんのは。

わかっちゃいたけど…他人から突き付けられると改めて実感させられる。




「…桃李!時間だ!行くぞーい!」

「はい!」



また例のように、二人は教室から出て、どこかへシケこんでいった。

…だが、さっきとは違って。

もう、イライラが吹き出してこない。



俺は、負けた…。

超どストレートな直球を一発受けて。

負けた…!



く、悔しい…!



茫然自失のまま、フラフラと歩き、自分の席に戻る。

「夏輝…松嶋に何言われた?」

一部始終を見ていたであろう理人。

だが、さっきの松嶋の小声の呟きは聞こえなかったのだろうか。

「負けた…」

「はぁ?」

もう、それ以上はコメント出来ない。

力が抜けて、机に顔を伏せた。




『余裕ブッこいて何もしないで、ただ見守ってるだけなら…そのうち、取られるぞ?』




ホントだわ。理人。

おまえの言うとおりだった。




スタートラインに立った時には、もう遅かった。

ここは、時既に戦の場。









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