次期社長と訳あり偽装恋愛
エレベーターに乗ると、あっという間に三階に着いた。
少しの名残惜しさを感じるのは、立花さんとの時間が楽しかったからだろう。
「今日はありがとうございました」
「いや、こちらこそ一緒に食事が出来て嬉しかったよ」
「とんでもないです。私も楽しかったです」
「ご近所さんてことで、またご飯とか誘ってもいい?」
またって……今日限りじゃないの?
「私でよければ」
立花さんの意図がわからなかったけど、きっと社交辞令だと思い頷いた。
今日は貴重な体験が出来た。
あんな高級ホテルで食事が出来るなんて想像もしてなかったし。
まぁ、立花さんと一緒に食事に行く機会はもうないだろうけど……。
エレベーターの扉が閉まりかけて慌てて降りると、なぜか立花さんも一緒に降りてきた。
「どうかしたんですか?」
立花さんは七階のはずで、三階で降りる必要はないと思うんだけど。
「河野さん、さっき恋がしてみたいって言ってたよね?」
「えっ、はい……」
不意にそんなことを言われ、曖昧に返事をする。
久々に恋はしてみたいと思ったけど、相手もいないし好きな人もいない。
だからといって合コンとか行きたい訳じゃないし。
恋をするなんて当分先のことだろうなと考えていたら、立花さんがとんでもないことを言い出した。
「だったら俺と恋、してみない?」
私は呆然と目の前の立花さんを見つめていた。