癒しの魔法使い~策士なインテリ眼鏡とツンデレ娘の攻防戦~
シックな色合いでまとめられたインテリア。

新築の10階建てマンションの8階。

目の前には町を代表する川が流れていて、花火大会が開催される時には、ここのベランダから眺めることができる。

20代の女性が住むには贅沢な空間。2階にはジムとプール、一階にはショッピングセンターも完備。

もちろん、セキュリティは万全,,,。
鈴村医療センターまで徒歩で10分。
文句のつけどころのない完璧な物件。

「,,,つーか、もう、やだ!なんなのよ、一体!」

運ばれた荷物はしっかりコンポされ、大きな家具は処分されていた。

「何を勝手に人の物、処分してんのよ」

「祐子おばさん,,,いや、お義母さんが仕分けしてくれた」

昨日の日中、そう、遙季の仕事中に、祐子は職員寮を訪れていたらしい。

そして、祐子プロデュース"光琉と遙季の引っ越し大作戦"、は決行された。

「頭痛い,,,」

遙季は、リビングのソファに脱力して横たわった。

フワフワして気持ちいい。このまま寝ても体が痛くならない位高級品っぽい。

「遙季,,,」

横たわる遙季に覆い被さる光琉。

「いつでもこうして抱き合えるように、適当なソファを探してみた。なんせ、時間はたっぷりあったからな」

聞けばこの8年間、色々妄想して計画を練って、最善策をリサーチしていたんだとか、お疲れなことで,,,。

ため息をついて右腕で目を覆い隠した遙季に、

「呆れたか?」

と光琉が尋ねた。

「呆れるのを通り越して感心するよ」

「どうしようもなく好きなんだ,,,。俺にはお前しかいない,,,」

遙季にとっても、これまで、好きになれたのは光琉しかいなかった。

遙季は右腕をずらして光琉の目を見つめた。

そしてゆっくりと光琉の背中に腕を回す。

「こんな私をお嫁さんにしてくれるの?」

「約束したからな」

遠い幼い日。

ままごとで、お母さんごっこをした時のこと。

旦那さん役の光琉に遙季は言った。

「大きくなったら本物のお嫁さんにしてね。そして、綺麗な指輪をちょうだい」

大きくなった光琉はお嫁さんにする約束を覚えていたんだ、と遙季は微笑んだ。

目を閉じて昔を思い出していると、左手の薬指に違和感を感じた。

「ほら、こっちの約束も守ってやる」

遙季の薬指にはキラキラ輝く4月の誕生石。ピンクダイヤモンド。

「遙季、俺のお嫁さんになってくれるか?」

「うん。よろしくお願いします」

そうして、2人の新居での新生活は、甘いプロポーズとキス、優しい抱擁からスタートした。

それが、たとえ、ガチガチに固められた包囲網で、逃げ出せない状況に成り立つものとしても

やっぱり、遙季は幸せだった。
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