仮面夫婦~御曹司は愛しい妻を溺愛したい~
第三章 愛人
翌朝、一希は美琴の作った消化の良い朝食を残さずに食べた。

「ご馳走さま」

そう言われたとき、結婚して初めて幸せと感じた。

(拒絶されないのって、こんなに心をが安らぐことなんだ)

それが普通なのに、一希と過ごしている内に感覚がおかしくなってしまっていたようだ。

今の関係は夫婦とは言えないだろう。

(でも私が努力していれば、家族としては受け入れて貰える日が来るかもしれない)

少しだけ希望を持てた朝だった。




一希は寝室に篭り、眠っていたけれど、時々起き上がり、タブレットで何かを確認していた。何度か電話もしているのを見た。

千夜子と話しているのかと気になったけれど、目をそらして、洗濯をはじめた。



一希との婚約期間に美琴はそれまで従事していた実家の仕事を止めて、祖父の住む久我山邸に移り住んだ。

そこで一年程暮らし、足りない知識やマナー教育を受けた。
レッスンは厳しく、宿題も多かったので暇な時間は殆ど無かった。

けれども結婚した今、美琴のやる事と言えば家事しかない。

それだって庭やバスルームなど体力を使うところの掃除は、母屋から家政婦が来てやってくれる。

仕事を持ってなく、家事も誰かが介入してくる。更には妻としての務めも果たせていない状況の中、自分の存在意義が見出せない。

だからせめて自分が出来ることは丁寧に完璧にこなしたいと思っていた。

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