フルール・マリエ
レアリゼ


本日初来店した浜崎様は50代の奥さんとその娘だった。

切れ長の目元がよく似た親子で、頭を下げるタイミングまで揃っていた。

2人ののコートを預かり、席に案内をしてお話を聞く。

「すみません。こんな、おばさんがウエディングドレスなんて」

着席早々、奥さんは恐縮したように頭を下げた。

「最近では浜崎様と同年代で結婚式を挙げる方も多いんですよ。ご心配なさらないでください」

晩婚化が進んできており、初婚年齢も上がってきているため、落ち着いたドレスなどが人気を博している。

「披露宴はなさらず、チャペルだけのお式ということで、ウエディングドレス1着と承っておりますが、お間違いないでしょうか?」

「ええ。入籍当初はこの子が既にお腹にいたので、式は挙げなかったんです。でも、今年結婚30年を迎えて、記念に式を挙げたらどうかと娘が提案してくれて、家族だけで式を挙げることにしたんです」

では、隣に座る娘は30歳なのか。

20代でも通るくらいの綺麗な肌に飾り気の無い服装がいくらか彼女を若く見せている。

「素敵なご提案ですね」

娘は少し照れくさそうにして、視線を手元に落とす。

「ウエディングドレスのイメージなどはありますか?」

「体型があまり目立たないものがいいんですけど、ウエディングドレスって肩とかも出てたりするのが多いんですよね?」

奥さんは丸みを帯びた二の腕をさすりながらおずおずと訊ねる。

「確かにそのようなドレスもありますが、形は様々ですよ。肩が隠れるものもありますので、お探ししますね」

そう微笑むと、奥さんは今日初めて安堵の表情を見せた。



< 98 / 176 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop