ニセモノ夫婦~契約結婚ですが旦那様から甘く求められています~
守りたいもの
「……契約終了、ですか?」

 私の抑揚のない声が、部長室に静かに響いた。

「すまないね。次の更新はしないことになったんだ」

 デスクから私を見上げて話す部長は、愉快さを隠しきれないといった面持ちをしている。発された謝罪に気持ちがこもっていないのは誰が見ても明白だった。

 私が目を細めると、部長は中年太りで丸々とした額に滲む汗をハンカチで雑に拭う。季節はまもなく冬を迎えるというのに、この部屋は空調によって寒いくらいに冷やされていた。私は思わずぶるっと震える。

 珍しく朝からオフィスに来ていると思ったら、これを言いたかったのね。

 羽織っていたカーディガンを正していると、胸の内側にふつふつと怒りが込み上げてきた。

「……それは、先日私が部長に申し上げたことが原因ですか?」

 堪え切れず、淡々と問いかける。

 出社したところをオフィスで待ち構えていた部長に、『相原(あいはら)くん、話がある』とここに連れてこられた。

 あんなことがあったから良い話ではないと覚悟していたけれど、まさか契約解除だなんて。
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