駅までの道のりを先生の背中を見ながら少し遅れて歩く。


と、車のクラクションが鳴った。


振り返れば、見覚えのある黒い車が止まった。


「乗ってけ」


「緒方さん!」


近くを通りかかり、もしかしたら鉢合わせするかもしれないという理由で迎えに来てくれたようだ。

すぐに菱川先生も乗り込む。



「ずっと外食で胃が痛いわ。俺も年なのか」


「なにおじさん臭いこと、言ってるんですか。まだ35歳でしょう」


「25のおまえには分からん」


「もう26になりました。今日は緒方さんのリクエストに応えた夕食にしますよ」


後部座席で前の2人の会話を微笑ましく聞いていると、隣りに紙袋が置いてあった。見覚えのある高級なチョコレート専門店のものだ。


まさか…。


「緒方さん、この袋って」


口を挟まずには居られなかった。

明るめの茶髪をカールさせた今風の容姿。自身に似合う格好を熟知しているかのようなセンスの良い服。職業はモデルだと言われても納得してしまうであろう緒方さんにチョコを受け取って欲しい女性は沢山いるだろう。


「うちの研究室の子からだ。食っていいぞ」


義理チョコ。
緒方さんも受け取るんだな。


「今年は何人ですか?」


「5人からだ」


「了解です」


「なんの話です?」


主語のない会話にも口を挟むと、菱川先生は紙袋を指差した。


「お返しを買いに行くことは毎年、俺の役目なんだ」


ホワイトデーのお返しだ。


「緒方さん学生には甘いから断れないんだって」


「おまえのように"気持ちだけ受け取っておくね"って爽やかに返せたら良いんだろうが、断ることも面倒でな。それで?今年もおまえのチョコレートはゼロか」


「ええ」


なんともない顔をして菱川先生は答えた。

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