「雪也と、雪也と、雪也と……」

 來夢は呟いた。

 ゆらゆら椅子の上で両膝を抱える。

 机の引き出しを開け、1冊のノートを取り出した。

 ページをめくろうとして手を止める。

 わざわざ見なくても、

 あの日のことはよく覚えている。




 あの日はどんよりとした曇りの日だった。

 約束の時間に遅れることのない雪也がその日はいくら待っても来ない。

 最初の苛立ちは時間が経つにつれ怒りになり1時間を過ぎるころになると不安に変わった。

 何度も電話したが繋がらない。

 事故か何かにあったのかも知れない。

 雪也の電話はさぞかし自分の着信だらけであろうその電話にまたかけようとした時、雪也から電話がかかってきた。

「雪也!?今どこ?どうしたの?」

 電話の向こうから聞こえてきた声は雪也の声ではなかった。

『早川雪也さんをご存知の方ですね』

 來夢の動揺した声とは真逆の冷静な男の声だった。

 そのあと告げられたことを來夢は信じることができなかった。

 途中からこれは夢なのだと思った。

 夢はなかなか覚めなかった。

 そして今でもその夢は覚めていない。

 雪也は來夢との待ち合わせに来る代わりにビルの屋上から飛び降りて死んでいた。