木漏れ日の中で、イリューシャはかすかな鉄の匂いを感じた。

 手に持ったカップをのぞきこむと、紅茶の中に薔薇のつぼみが浮かんでいる。ふわりと花の香りが立ち上って消える。

「リィ、今夜は」

 カップの中をみつめたまま沈黙したイリューシャに、向かいの席に座った青年が声をかける。

 イリューシャが顔を上げると、兄のダミアがみつめていた。長い黒髪を背中で縛り、浅黒い肌に銀色の瞳が映える。背中には瞳の色と同じ、輝く銀色の翼があった。

 銀色の瞳が心配を帯びたのに気付いて、イリューシャは慌てて言葉を返した。

「はい、にいさま。起きて待っています」

 イリューシャは柔らかく笑って、あどけなく兄の言葉を繰り返す。

 森の中に建てられた白亜の東屋は、他に何の音もしない。鳥さえも声をひそめて、イリューシャの約束の言葉を聞いているようだった。

「にいさま?」

 いつもならこの優しい兄は、いい子だねとうなずいてくれる。けれど今日は違っていた。滑るようにイリューシャの隣に席を移すと、彼女の長い銀髪を手で梳く。

「どうされたのですか?」

 ダミアはイリューシャの髪をかきあげて、額に唇を寄せる。

 まぶた、頬と、かすめるようなキスを落とす。イリューシャがくすぐったそうに口元をほころばせると、最後に唇にも口づける。

 唇へのキスは、いつもより少し長い気がした。顔を離したときのダミアの目も、危うい光を帯びていた。

「私の宝物。やっとここまで育ってくれた」

 ダミアはそう言って、イリューシャを腕の中に収める。彼がまとう馴染んだ香草の匂いに包まれて、イリューシャは一瞬感じた違和感は気のせいだったと安心した。

「……私のものだ」

 イリューシャが瞳を閉じると、ダミアは彼女の頭に頬を寄せた。