早紀先輩はすでに、定時上がりに向けて仕上げの段階だった。朝のうちにきつくまとめ上げた髪が、いい感じにゆるんでいる。
早紀先輩は、仕事も早いけど帰り支度も早い。田代君も、この時間は珍しくテキパキと仕事をしている。グズグズしてると置いて行かれる。
これは、町田課長の仕事のやり方でもある。彼が無駄な残業はするなと、厳しく部下に言い聞かせているのだ。
それなのに課長本人は、山のような仕事を抱えて遅くまで会社に残っている。部下に帰れとけしかけておいて、自分は部下がやり残した仕事や、他の部署との調整などで仕事は増えるばかりだった。

課長のこと考えててうっかりしてると、私だけ残業になってしまう。
オフィスを見渡しても、町田課長は席にいない。帰り掛けに印鑑をもらおうと思ったんだけど。
まだ、会議が終わってないのかな。課長、飲みかけのコーヒー机に置いたままだ。

電話がかかってきたり会議に出てたりして、町田課長は、席にいないことが多い。
席にいなければ普段通り、心を乱されることなく仕事ができる。
彼がいないと、仕事に集中できる。
それは……
彼のことをすごく意識しているからだ。
印鑑が欲しいだけなら、こんなに何度も課長の方を見ない。