大江戸シンデレラ
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周囲(ぐるり)を高い塀で囲まれた吉原は、すぐ外がお歯黒どぶ(・・)だ。

その名のとおり真っ黒な汚水が淀むその(どぶ)は、遊女や女郎たちが吉原の外へ逃げ出さないようにするために設けられたもので、幅が五間(約九メートル)もある。

客は、猪牙舟(ちょきぶね)に乗って大川(隅田川)から山谷堀に入ってきて、見返り柳の岸辺で舟を降り、お歯黒どぶ(・・)が流れる()ね橋を渡って大門(おおもん)から入ってくる。巡らされた塀が唯一途切れた其処(そこ)が、たった一つの出入り口だ。

朱色に彩られた二本の柱に黒い屋根を乗せた鏑木(かぶらぎ)門の大門を(くぐ)ると、右手には遊女や女郎たちを見張る四郎兵衛会所、左手には御公儀(江戸幕府)に仕える同心や岡っ引きが詰める面番所がある。

其処からまっすぐに突っきる大通りを、仲之町と云う。

一番初めの辻の右手が江戸町一丁目、左手に伏見町と江戸町二丁目があり、この辺りの二階()で大名御殿のごとき店構えが「大見世(おおみせ)」だ。
いわゆる「呼出(よびだし)花魁(おいらん))」はこの大見世にしかおらず、しかもたったの数人である。

二番目の辻の右手が揚屋町、左手が角町で、二階家だが少し格の落ちる「中見世」だ。
ゆえに、この見世では「呼出」を置くことが認められず、その下の「昼三(ちゅうさん)」が最上位である。

三番目の辻の右手が京町一丁目、左手が京町二丁目で、一番格下の「小見世」や「(きり)見世」が(ひしめ)くように軒を連ねている。
「大見世」や「中見世」でなにかやらかして売っ払われてしまった者や、年季が開けたにもかかわらず負い目(借金)が残っている者、御公儀の御赦(おゆる)し以外で春を売ったために揚代(あげだい)(料金)の取れぬ「(やっこ)女郎」に罰せられた者などが縋りつく、どん底の見世だ。

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