星空電車、恋電車

海岸の思い出

***

海浜公園グランドでの練習後、約束通り樹先輩は私だけを誘ってくれた。

「何だよ。仲良しだな、デートかよ」
京平先輩の冷やかしにも樹先輩は
「そうだけど?」
それがどうしたとさらりと返して、反対に京平先輩が「ええ」っと怯み、私は顔を赤くしてしまった。

”よかったねー”とか
”滅多にないことだから早く行っておいで”と私と同じ障害物グループの先輩や同級生には温かく背中を押されて送り出された。

約一名からの鋭い視線は目に入れないようにしていたらいつの間にか無くなっていた。どうやら京平先輩が他のメンバーと共にファミレスに強制連行してくれたらしい。
サンキュー、グッジョブ。




「もう少し、海の方に行ってみようか」
「賛成です」

海岸線の遊歩道を二人並んでゆっくりと歩いた。

今日は樹先輩も電車で来ていたから邪魔な自転車はないんだけれど・・・。

手をつなぎたいな
そう思ったけれどこんな時、私から催促してもいいのだろうか。
可愛くおねだりができるような性格じゃないことがとっても恨めしい。

触れあいそうで触れ合わない微妙な距離。

前から両手に幼い子どもを連れたママさんが歩いてきて私たちが歩道の端によけた時、とんっと軽くお互いの肩口が触れた。
「あ、ごめん」

「いいえ、大丈夫です」

先輩、ごめんじゃないのに・・・。
方が触れたくらい全然悪くないのに。
むしろ、あー手をつなぎたい!先輩ともっと近づきたい!

「ちー、なんか怒ってる?」

無言で葛藤している私にかけられたのは予想外の言葉だった。

「怒ってませんよ?怒ってるように見えました?」

ひゃー、あまりに手をつなぎたいって思ってて難しい顔をしてたかもしれない。
バカだー、私大バカだぁ。

「うん、なんか難しい顔してた」

や、やっぱりっ。

「ええーっと、全然っ。怒ってませんっ。先輩と歩けて嬉しいし怒ってるはずないですよ」

あせあせと両手を振ってごまかす。
手をつなぎたくて考え込んでたとか恥ずかしくて絶対言えない。
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