星空電車、恋電車
「桜花、やめなさい。あなたいっくんのお邪魔をしているわよ」

すぐ後ろからその母親と思われる女性が歩いてきて彼女に声をかけた。
でも、咎めるような言い方じゃなくて、困った子ねと幼児に言い聞かせるような話し方だった。

「え、あれ?」

桜花さんは私の存在に全く気が付いていなかったらしく、彼の隣に立つ私を見て目を丸くしている。

「そっか、お友達と一緒だったんだね。うん、また後で連絡するね。いいよね、いっくん」

すがるような目をして彼を見つめている。私のことは視界に入らないのか入れたくないのか。
なんか、やだ。樹先輩はあとで連絡を取り合うのか、この子と。

「ああ、また後で」
彼がそう言うと、「じゃあ絶対よ」と手を振りながら母親とホームの先の方に向かって歩いていった。その顔には名残惜しいとハッキリと書いてあった。

母親の方は私を無視できなかったのか「ごめんなさいね」と言って私に軽く頭を下げていったので私も軽く頭を下げた。

一日中うきうきとときめいていた気持ちが一気に急降下。

あの子が言った私の立ち位置。”お友達”の言葉に樹先輩は否定しなかったことも先輩と彼女との間に見えた特別な親しさにもショックを受けてしまった。

それは大きく膨らんでいた風船が弾けたわけじゃないけれど、いくつもの小さな穴が開いてしなしなと縮まっていくような感じで、とても切ない。

かわいらしい子だ。
私と正反対の。
色白でふわふわしてて。

樹先輩は去っていく彼女の後ろ姿を目で追ってからやっと私に向き直った。

「ごめんね、ちー。あいつは母親同士が友達で幼なじみの桜花。ちーの二つ年下なんだ。いま受験生だよ。うちの高校を受けるって言ってたから受かったらちーの後輩になるな。陸上部には入らないと思うけど」

樹先輩は何も感じてないのか笑顔で彼女の話をしはじめた。
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