誇り高きZERO.
警察官を信じているから

「横から口を挟むようですいませんが、その水乃さんという女性が犯人だったとして、動機は?」
「男性絡みでもめてたとか?」
「女同士の友情は成り立たないっていうしな」
「お言葉ですが!!」
 泉は少し低めの声を響かせた。部屋は静寂に包まれる。
 こういう時、場の空気を自分のものにすることに長けている。泉、否、神童から見習うべきものの一つだと竜ヶ崎はしみじみと感じた。
「憶測だけで言葉を並べるのは結構ですが、皆さんはご自分の立場というものをもう少し自覚しては如何でしょうか?」
「何だと?」
「今の発言は、ワイドショーを眺めている友人同士の会話ですか?その一言一言に責任をお持ちください。それが警察官というものなのでしょう?ねぇ、竜ヶ崎さん」
 泉が振り返る。笑顔に隠された瞳の強さが揺るぎない信念と誇りに燃えていた。
「もう一度、問います。水乃奏音が篠崎愛花を殺害した動機は?方法は?粟田を犯人に仕立て上げたのは何故ですか?」
「それは……」
「一週間です。篠崎愛花が殺害されて一週間が経ったんです。たった一週間だと言いますか?当事者の立場になれとは言いません。ですが貴方がもし現場周辺に住む一般市民だったとして、貴方は怖くはありませんか?人が殺されたんです。なのに犯人は捕まっていない。次の犠牲者が出るかもしれない。その犠牲者が自分かもしれない。自分の家族や友人、大切な人かもしれない。市民は恐怖を抱いています。それでも、いつもと変わらないように仕事や学校に行っているんです。どんなに怖くても。何故だと思いますか?貴方達が居るからですよ。警察を信頼しているから、だから変わらない日常を過ごしているんです」
 泉は四人を見つめながら言葉を続ける。
「篠崎愛花を殺したのは誰だ?粟田か?それとも水乃か?よく見て考えろ。首には紐で吊られたような痕。坂木のDNAが付着したつけ爪。水乃が粟田を犯人に仕立てるための偽装なのだとしたら、なぜ坂木を選んだ?篠崎を殺した動機は?」
「粟田はガイシャのストーカーです。元交際相手でガイシャから切り出された別れを受け入れられずに、電話やメールを繰り返し何度もしていましたし、帰宅途中にあとを付けたりしていました。ポストに直接手紙などを入れられたこともあったと、水乃奏音から証言を得ています。僕は、水乃さんは犯人ではないと思います。彼女は粟田の話をしている時、憎しみが隠し切れてなかった。逆にガイシャの……、篠崎さんの話のときは本当に悲しんでいた。僕は優秀でも何でもありません。でも、それでも僕は、彼女のその感情や表情が演技だとはとても思えなかった……」
 松島は恐る恐ると言った風に泉に伝えた。
「それで、君は?水乃は犯人じゃないと?」
「根拠はないです。でも、犯人は水乃さんでも、粟田さんでもない」
「だったら篠崎を殺したのは誰だっていうんだよ!!」
 竹島が、松島に掴みかかる勢いで言い放つ。
「篠崎愛花を殺したのは、篠崎愛花本人だよ」
 松島の言葉に残りの三人は驚き、言葉を失った。
「泉さんは最初から気が付いていたんですよね」
 泉は松島の言葉には答えずにホワイトボードの前に移動する。

「何度も言いましたが、この首の痕。これはどう考えても首吊り自殺です。篠崎愛花は恐らく自宅で自ら命を絶ったのでしょう」
「だが、発見されたのは外だ!!」
「えぇ。運んだんでしょうね」
「一体誰が……」
「水乃奏音、ですよね……?」
 松島の言葉に泉は頷いた。
「このつけ爪は水乃奏音のものでしょう。粟田康彦に聞いてみてください。一週間ほど前に、誰かにぶつかったり、引っ掻かれたりしなかったかってね」
「まさか……、じゃあどうして水乃は自殺したガイシャを粟田に殺されたようにわざわざ細工したんだ?!」
「松島さんも仰っていたではありませんか。粟田という男を恨んでいたんですよ。友人を死に追いやったね」
 泉の言葉に若き捜査官たちは深い溜息を吐いた。
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