恋を忘れたバレンタイン
カーテンの隙間からの光りに、私は目を開けた。

ダークなカーテンの色に、ここが何処のか記憶が蘇る。

 頭の上から、彼の寝息が漏れる。
 私は、ゆっくりと体の向きを変え、彼の寝顔を見つめた。

 この関係は、いったい何なのだろう?

 一晩だけの流された関係に過ぎないのかもしれない。


 もし、例えお互い気持ちがあったとして、これからも続く関係となったとしても、きっと、また、あなたは重いと言い、彼も私から去っていく……


 そんな、事が頭の中に浮かび出した。


 彼が目を覚まし、どんな言葉を言って、どんな結果となっても、結局は同じ事になる。

 そう思うと、彼が目を覚ますのが怖くなった。


 私は、するりとベッドから抜け出した。

 彼は、気付かずに眠っている。
 慌てて下着をつけた。部屋着も下着も、自分の後が残るものは全て袋に押し込んだ。


 寝室のドアノブに手を掛けると、もう一度ベッドに眠る彼の元へと戻った。

 じっと、彼の顔を見る。
 もう、これ以上は無理…… 
 心まであなたに奪われてしまいそうだから……


 この時、私はまだ、自分が臆病で逃げている事に気付いていなかった。

 ただ今は、傷つく事から逃げたかっただけだ……


 「ごめんね……」

 何に対して、私は謝ったのだろう? 
 自分でも分からない。


 音を立てずに寝室のドアを開けると、そのまま一気に彼の部屋を後にした。



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