エリート御曹司は獣でした
人波を縫うようにして、会場の奥へと足早に歩く彼に、私は足手まといにならないよう、小走りでついていく。

顧客たちにご挨拶を……という今日の仕事は、最初は久瀬さんひとりの予定だったのだが、三日前に『私も同行します』と願い出た。

新作ドレッシングや調味料を紹介しているブースもあるだろうと予想して、ポン酢ハプニングに見舞われた場合に、私が彼を守らなければと思ったからだ。


すっかりナイト気分の私に、『気をつけるから大丈夫』と笑った久瀬さんであったが、同行を許可してくれた。

『せっかくの機会だから、一緒に行こうか。顧客の潜在的ニーズを引っ張り出す方法を実地で教えてあげる。相田さんの勉強になるはずだ』と、私の成長のためにである。


真面目な久瀬さんは仕事のことしか考えていない様子だが、正直いうと私は、彼とふたりきりでの外出を楽しいものにしようと密かに気合を入れている。

この前の失敗を挽回したいという思いがあるからだ。

この前というのは、肉パーティーの日に久瀬さんと約束した、ステーキハウスでのデートのことである。
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