エリート御曹司は獣でした
「相田さん、今から会社に行こう。PLU-25を使用した場合のプランニングをしなければ。カップスープの紙容器だよな? 俺も手伝う」

「え……あの、私の仕事なのにすみません。でも、今日やらなくてもいいんじゃーー」

「ダメだ。月曜すぐ動けるように準備しよう。謝罪と訂正には、俺も一緒に行く。人間だからミスすることはあるが、どう対処するかで印象が変わってくる。相田さん、最善を尽くそう。これはうちの社の信用に関わる問題だと思ってくれ」


これが、いつもの久瀬さんだ。

頭ごなしに叱ったり、怒鳴ったりはしないけれど、優しく指導して、決して妥協を許さない厳しい人である。


「それと今後は、問題に気づいた時点ですぐに俺に報告するように」

「はい、申し訳ございません……」


すっかり仕事モードに入った彼に謝る私は、休日出勤は免れないことを悟った。

しかしながら、右手の温かな肉まんが、今すぐ食べないと冷めてしまうよと無言で語りかけてくるので、恐る恐る彼に意見する。


「それじゃあ、肉まんを食べてから出社するということにーー」

「社に持って行こう」

「私、コートの下はぴょっこりはんなんですけどーー」

「休日は暖房が切られている。寒いからコートを脱ぐ必要はないよ。早くして」


文句を言わずにすぐに動けと言いたげな厳しい視線を向けられ、私は首をすくめた。

久瀬さんは仕事熱心で真面目だ。

先ほど私に馬乗りになりながら、対処よりも『うまそうなおっぱいが……』と言った人と、同一人物とは思えない。


肉まんを食べるくらい、許してくれてもいいと思うのにな……。


反論は心の中だけで。

「はい……」とため息交じりに答えた私は、彼に従い、急いで荷物をまとめるのであった。
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