身代わり令嬢に終わらない口づけを
第一章 恨みますよ、お嬢様。
先ぶれもなく突然扉が開くと、一人の男性が入ってきた。心臓が飛び出そうなほど驚いたことは微塵も感じさせない仕草で、ローズはソファから静かに立ち上がる。そして優雅に裾をさばくと、ドレスの裾をゆったりと持ち上げてしなやかに淑女の礼を取る。 
「お前がベアトリスか」

 低い声で呼ばれて、ローズは緊張しながら、そんな風に呼ばれた時には本物のベアトリスならどうするだろうかと、瞬時に頭の中で考えた。

 深く頭を下げた礼の姿勢で、気付かれないように息を吸う。


「初めてお目にかかります。ベアトリス・リンドグレーンです」

 そして、ローズは顔を上げた。ローズが今まで見てきた、ベアトリスの凛とした雰囲気をその身に作って。

 胸を張って、自分より背の高いその男性をみつめる。


 扉の前に立ったままの男性は、ローズよりも頭二つ分近く背が高かった。ローズが初めて見たその顔は、少し驚いたような表情をしていた。

「確か二十歳と聞いているが……?」

「はい」

 緊張しているのを悟られないように、ローズは言葉少なに答えた。
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