次期院長の強引なとろ甘求婚
「すみません、どうもありがとうございました。助かりました……」
「いえいえ、そんな。お花、届けに来てくださったんですよね。今、兄も出てくると思うので、中の方に――」
「いえ、大丈夫です。あの、これ、申し訳ないのですが代わりに届けていただいてもよろしいですか?」
「え、でも……」
「ちょっと、この後に配達も立て込んでいまして……お願いできたらありがたいのですが」
少し強引に花束を託し、ぺこりと頭を下げる。
「すみません、よろしくお願いします」
「あ、未久さん!」
妹さんの声が引き留めてきたけれど、私はそのまま病院内に入ることなく、敷地を出て行った。
お店への帰り道を歩きながら、やっぱり〝サホ〟さんは樹さんと特別な間柄なんだと再認識していた。
私がうろちょろすることに多大な嫌悪感を抱き、罪のない花でさえ憎らしく思えたのだろう。
いずれ義理の姉妹となる妹さんが、彼女の行動を叱ったと思えば樹さんとの関係にも納得がいく。
やっぱり、妹さんに託して正解。
こんな気持ちで樹さんに会ったら、きっと顔も見られなかった……。
悲しくて苦しいなんていう感情とはまた違う。
妙にこの結末を納得する自分がいて、涙は一粒も出てこなかった。