会社から徒歩20分の閑静な住宅街に、大地の住むマンションはあった。

初めて足を踏み入れたのは、忘れもしない、四年前の夏である。

2月に引っ越してから約半年、最低限掃除機はかけていたものの一切のゴミを捨てていなかった大地の部屋は、玄関だけ異臭が漂っていた。

ゴミ袋からひょこりと顔を出していたミカンの皮が、黒と緑のマーブルカラーに変身し、そこに小蝿がたかっていたのを発見した悠莉は、腹の底から絶叫した。

部屋には空のペットボトルが数えきれぬほど転がっており、干からびた虫の死骸もいくつか見つかった。

会社では必要最低限の持ち物で猫を被っている大地だが、本性はゴミ屋敷生産者である。

それを知っている悠莉は、彼女がいない時期に大地の家に赴く機会があれば、毎回徹底して掃除をしてから帰ることにしている。

さて、今回はどれだけ汚いのか。

大地に続いて玄関に入った悠莉を襲ったのは、違和感であった。

さすがに生ゴミは初回だけであるが、いつもなら大地の靴がぐちゃぐちゃに脱ぎ散らかされ、足の踏み場もないほどに広がっているはずである。

しかし今日は、すっきりと片付いていた。

おまけにスリッパまである。いつの間に買ったのか。

さらに、玄関の向こう、キッチンからはふんわりと味噌の匂いがする。恐らく味噌汁だ。

「いつの間に文化的な生活を……小野寺?」

ふと大地を見ると、彼の顔は病的なくらいに真っ白で、額には汗が浮き出ていた。

リビングに入ると、すっきりと整理整頓されたキッチンが二人を迎えた。

「一昨日、掃除担当に連絡したんだよ。別れ話しするために」

「ほう。それで?」

「青木に彼女のふりをしてもらう前から、そいつとは別れるつもりだったんだ。最近気づいたけど、そいついわゆるメンヘラってやつみたいで……何かと連絡多いし、束縛激しいし、正直きつくて。別れ話しを仄めかしてから、LINEに既読がつかない」


明らかに、別れが泥沼化するパターンである。

それは彼もわかっているらしく、彼の眉間のシワは深い。


「昨日恵比寿から帰ってきてから、なんか家の様子がおかしいんだよ。一応一人の時でもゴミは出すようになったけど、木曜日の回収までは玄関に置いてあるはずなのに、昨日の時点でなかった。洗濯だって日曜日にまとめてやっているのに、ベランダ見てみろ」