時刻は18時を少し過ぎたばかりだった。

日没にもなっていない明るい時分から、千鳥足の大地と、彼を抱えた悠莉が住宅街を闊歩する。


「青木力持ち~」


陽気に酔っぱらいケタケタと笑う大地に反応はせず、手早くマンションに運ぶ。

ズボンのポケットからキーケースを取り出し、鍵をあけて、悠莉は大地のマンションにお邪魔した。

リビングのソファーに大地を寝かせると、楽になったのか、彼は深い息を吐いた。

悪酔いはしていないようだが、とりあえず水は飲ませておこうと、悠莉がキッチンに行こうとしたその時、ブラウスの裾が掴まれた。


「なあ、青木」

「ん?どうした?」


悠莉は、具合でも悪いのかと大地の顔を覗きこんだ。

まだ赤らんだ顔ではあるが、大地の目はビアホールを出た時よりはだいぶしっかりしている。




「俺にキスされたの、嫌じゃなかった?」




どちらともなく避けていた話しに真正面から向き合ったのは、大地が先だった。

瞬時に、頭の中に金曜日の夜が蘇る。

白ワインの味、体温の熱さ、なめらかな唇、身動きがとれなくなるほどの衝撃。

それらを完全に思い出した時、壊れたかのように心臓が激しく動きはじめた。

顔に熱が集まるのを自覚し、それがさらに羞恥を煽り、悠莉は大地から目をそらした。


「い、いきなりなんの話しだ」


悠莉の弱々しい声に、大地は質問の答えを確信した。


「ずっと聞こうと思ってた。もしあのキスが青木にとって不快なものだったら、青木を傷つけるものだったら、誠心誠意謝るつもりだった」


ソファーから起き上がった大地は、ゆっくりと悠莉ににじりよった。

裸足の時、二人は10cm近い身長差がある。

火傷しそうなくらい熱い視線が上から降り注ぎ、それに絡みとられそうで、思わず悠莉は後退りした。

真後ろは壁で、すぐに行き場がなくなる。

大地のしなやかな両手が伸び、ふわりと顔の両サイドを塞がれて、とうとう身動きが取れなくなってしまった。


「無言でいられると、勘違いしそうになる。あの夜、青木は嫌がっていなかったって」


大地の右手が悠莉の頬に触れた。

顔を包み込んだあと、指先が耳から首筋をなぞっていく。


「小野寺……」

「嫌ならはっきりそう言わないと、止めてやれそうにない」