ビタースウィートメモリー


恋愛ビギナーの悠莉はこのシチュエーションが異常だということはわかっても、どうすれば良いかわからなかった。

大地が言っていることが、していることが理解出来ない。頭が追いつかない。

整った綺麗な顔が近づき、咄嗟に悠莉は目をつぶった。

右手は顔に添えられたまま、左手は腰に回され、唇が触れる。

一瞬僅かに隙間が生まれ、終わったのかと思いきや、さらに深く唇が重なった。

ぴったりと隙間なくくっついた唇は角度を変え、優しく悠莉を食む。

電流のようなものが背中に走り、ゾクリとした瞬間、悠莉の体から力が抜けた。

薄く開いた口に大地の舌が素早く侵入する。

悠莉が拒む暇も与えず、大地はより深く捩じ込んだ。

柔らかく舌を絡めてねっとりと舐められ、焦らすように上顎も刺激され、悠莉は小さくあえぎ声をこぼした。


「んっ……」


控えめだが甘く掠れた声に、大地の欲情がさらに煽られる。

深さだけではなく激しさも増したキスに、息継ぎの仕方を忘れて何年も経つ悠莉は、気持ち良さよりも酸欠で涙目になった。

それに気づいた大地が、舌の動きを緩め、最後にもう一度唇を啄み、顔を離した。


「あの夜、なんで青木にキスしたくなったのか今わかった」


もはや、大地の目から逃げることは叶わなかった。

前回のキスが不意打ちだったのを理由に、悠莉は大地との間に漂う変化した空気を無視出来た。

しかしもう誤魔化せない。

抵抗しようと思えばいつでも出来たのに、しなかった。

しようとも思わなかった。



「もう一回、今度は本気で言う。青木が彼女だったらいいのにって思ってる」



長年築き上げた友情に、ヒビが入った瞬間だった。



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