身ごもり政略結婚

プロローグ

今日、私は政略結婚をする。



春の足音が聞こえてくる三月中旬。
私たちの門出を祝うかのように空は晴れ渡り、昨日は吹き荒れていた冷たい北風もピタリとやんだ。

挙式は私、平岡結衣(ひらおかゆい)の父が、明治時代から続く老舗和菓子舗『千歳(ちとせ)』の和菓子職人ということもあり、神前式を選んだ。

お相手の須藤大雅(すどうたいが)さんは挙式にはまったくこだわりがないらしく、私の希望を聞いてもらえたのは幸いだった。


身に纏った白無垢は、峰岸(みねぎし)織物という歴史ある繊維メーカーが手掛けた最高級品で、大雅さんが用意してくれたもの。

正絹の白無垢は温かみのある生成寄りの白色で、光沢が上品で美しい。
職人の手によって刺繍されている鶴が印象的で厳かな雰囲気を醸し出している。

鶴には長寿を願う意味もあるけれど、鶴の夫婦が一生を共にすることから、夫婦円満の象徴でもあるのだとか。

私のためだけに用意されたこの白無垢はずっしりと重く、気持ちが引き締まる。