無遅刻無欠席が取り柄の引っ込み思案の透明人間
透明人間たるもの後を汚してはいけない。
 叫ぶと、眠気がふきとんだ。
 
 風呂場から出ると廊下には俺の血の滲んだ足跡がてんてんと残されていた。

 俺は風呂場に戻り、雑巾を探した。

 そうだ。俺の完全出席を達成するために飛ぶ鳥跡を汚してはいけない。

 自転車も帰りに元の駅に戻しておこう。

 廊下の真ん中あたりに固定電話が置いてあり、電話台の上にメモ帳とボールペンが置いてあった。

 飛ぶ鳥は跡を汚してはいけない。飛ぶ鳥は……。

 俺は独り言をいいながら、ペンをとった。

 <<おばさんこんにちわ大西敦です。
筒美君とクラスメイトです。
 トイレと風呂を借りました。
 ありがとうございました。いつかまた恩返しします。>>

 電話台の向こうの軒下に洗濯物が干してあり、筒美君の物らしい靴下を一足とった。

 <<それから靴下も借りました。今度、新しいの買ってきます。>>

足のうらが切り傷でヒリヒリしていた。
 
 ひどく喉が渇いていたので風呂場の横にある洗面所で、水道水をたらふく飲んだ。


 喉を潤し、一息ついた俺は、ヨシッと気合いを入れて玄関を飛び出した。

 門の塀際にある鉢植えに水をやっている筒美君のお母さんに、ありがとう!!と大声で挨拶して、学校へ向かった。

 振り返らなかった。おそらく筒美君のお母さんは、キョロキョロしたに違いない。

 さっきクラスメートの筒美くんが、玄関を出た。逆算すると始業時間まで、あと10分ぐらいのはずだった。

 俺は、走るスピードをあげた。

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